実は負けず嫌い
「う……ううん……」
見事にクレアにやられて気を失ったシゾン。
彼女が目覚めたのは一刻ほど過ぎたところであった。
「目が覚めたかのう」
「おじい……ちゃん……」
まだぼんやりとする視線の中で声の方を向く。
そこには今は居ないはずの祖父の姿が見えた気がした。
「うむうむ、ワシじゃよ」
シゾンが声の方に手を伸ばすと、その手をギュッと握り返してくる感触があった。
それは祖父の大きな手……ではなく、自分よりも遥かに小さな手。
その瞬間にシゾンの意識が覚醒し出し、祖父の姿は見る間に歪んでクレアの姿へと変わっていった。
「お姉ちゃん……どうしてここに?
潜入に行ったんじゃなかったの?」
自分がどれだけ寝ていたか分からなかったが、辺りが暗い事から一晩ぐっすりと言うわけではないだろう。
だが、そう疑問に思うシゾンにクレアは一枚の紙を取り出した。
「それならもう終わったのじゃ。
クラリッサ嬢が非常に優秀なおかげで助かったわい」
そう言って笑うクレアであったが、その姿を見たシゾンは顔を伏せた。
「……やっぱりお爺ちゃんは凄いね。
私が心配するなんて烏滸がましかったのかな」
大好きな祖父と一緒に学校に通えることになり、初めてのダンジョンでは、そんな祖父を守りながら先に進むことが出来た。
自分は祖父と……クレアと共に歩んでいくことが出来る。
そう錯覚していたのだ。
だが、実際には直接戦えばなす術も無いほどの大敗を喫し、心配していた潜入捜査も僅かな時間で成功させて戻って来ていた。
シゾンの中で芽生えていた自信は粉々に粉砕され、クレアとの間にある絶望的な差を思い知らされていた。
そんなシゾンの頭をクレアが優しく撫でる。
「お主はまだ若い……ワシは見た目は若くなったが、中身は80年の経験がある大ベテランじゃ。
学校も始まったばかり……シゾンはこれからじゃよ。
これから学び、鍛え、どんどん成長していくのじゃ。
お主の可能性はまだまだ無限大じゃよ」
「……うん、お爺ちゃんも超えられるかな?」
「ワシの若い頃にはこんなに効率よく学べる場所なぞ無かったからのう。
この学校を卒業できる頃にはクレーズを超えておるかもしれぬぞ?」
「そっか……そうだね!
私、頑張っておじいちゃんを超える!!」
「その意気じゃ!
もっとも……」
元気を取り戻したシゾンの頭を撫でながらクレアはニヤリと呟く。
「その頃にはクレアもクレーズを超えているだろうがのう」