クレアVSシゾン
「どうしたのじゃ?」
「お姉ちゃん1人で行くなんてダメだよ!
見つかったらどんな目に遭わせられるか分からないじゃない」
「そうは言ってものう……お主は身体が大きすぎて連れて行けぬし、潜入なら単独でやった方が見つかるリスクは少ない。
それに1人ではなく、クラリッサ嬢も……」
「それでもダメ!
それに私にはその人見えないんだから、一人で行かせるのと変わらないよ」
シゾンはクレアに抱きつくと離さないと言わんばかりにキツく抱きしめる。
「どうするんですかぁ?
とりあえず私1人で見て来てもいいですよぅ」
「いや、待っておくれなのじゃ。
シゾンよ、アンデルスト家で意見が対立したなら解決方法は一つだけ……分かっておるな?」
「……力で相手をねじ伏せる」
「相変わらず脳みその中が筋肉で出来てるわね」
真面目な2人を茶化すようにエリーが言うが、場の雰囲気もあって全員が聞き流した。
「ぶふっ……脳筋一家」
そんな中でクラリッサだけはケタケタと笑っていたのだが。
「エメリア嬢、訓練場を借りるぞ」
「はい、こちらです」
エメリアの案内で2人はギルドに併設された訓練場へとやってくる。
もちろん、エリーとクラリッサもついて来ていた。
2人は収納していた戦闘装備に着替え、訓練場の真ん中に立つ。
「この身体になって勝負をするのは初めてじゃな」
「言っとくけど手加減しないからね」
「シゾンに手加減されるほど耄碌してはおらぬよ」
「それだけ若返れば耄碌なんてしないでしょ。
昔みたいに動けないくせに」
「そう思うなら試してるが良い」
クレアの挑発ともとれる言葉を皮切りに、シゾンが前へと走る。
上段からロングソードを振り下ろすものの、その一撃をクレアは紙一重の位置で避ける。
次いで振り下ろした剣を力任せに起こして切り上げへと繋げる…‥が、クレアが閉じた鉄扇を剣の腹に叩き込むことで、その一撃はあらぬ方へと逸れていった。
「やっぱり大振りじゃ通用しないか」
「当然であろう。
ワシを何と思っておるのじゃ」
初撃を防がれたシゾンは一転して攻め方を変える。
大きく重い一撃から、次の動きを意識して軽く連撃へと。
剣をしっかりと握り、先程のように横から力を加えられても耐えれる程に力を込めて。
だが、それでもクレアには一つとして当たらない。
まるで踊るような足捌きで攻撃をいなしていき、避けられぬ攻撃は先程のように剣の腹を叩いて反らせる。
その一点狙いの一撃にはまるで力が込められているように見えない。
ただ、友達の頬に指でイタズラするように……軽く鉄扇の先で押しているようにしか見えない。
だが、シゾンがどれだけ強く剣を握ろうと、鉄扇が剣に触れた瞬間大きな衝撃を受けて逸らしてしまう。
「どうしたのじゃ?
その程度でワシを止めれるつもりじゃったのか?」
「う、うるさい!
これならどうだ!!」
頭に血が上ったシゾン、彼女は当初のクレアを力づくで止めると言う事を忘れて本気の突きを放つ。
鋭い突きがクレアの元へと迫る……そこで彼女は初めて鉄扇を開いた。
開いた鉄扇を剣の下に滑り込ませると大きく煽ぐように上へと向ける。
「……風!?」
その途端に強い風が巻き起こり、シゾンの身体を上方へと逸らしていく。
身体のバランスが崩れて前のめりになるシゾン。
すれ違う位置にいたクレアは咄嗟に鉄扇を閉じると、そのままシゾンの腹に一撃を喰らわせる。
勢いよく前のめりに倒れようとしていたシゾンにとって強烈な一撃。
だが、クレアの攻撃はそれだけで終わらず、彼女の前へ向かう制御できていない力を、叩きつけた鉄扇からコントロールして上へと解き放つ。
「うぐっ……うわあああ!?」
抵抗できないままに回転しながら上空へと浮かび上がっていくシゾン。
高さの限界に到達した彼女は頭を下にして錐揉み回転をしながら地面への対面を果たした。
頭から地面に突き刺さったシゾンはそのあとはピクリとも動かないのであった。