見えない諜報員
ギルドの関係者以外立ち入り禁止と書かれた部屋に案内された2人は、受付嬢であるエメリアの話を聞いていた。
この話は既に知っているからという理由で、エリーが代わりに受付を務める事になったのでこの場にはいない。
こうして話している間もクラリッサはふよふよと浮きながら自由に漂っていたのだが……どうやら見えているのはクレアとエメリアの2人だけらしい。
「えっと……話に出てきた女騎士がエメリアさんで、処刑された侯爵令嬢がクラリッサさん?
で、合ってます?」
「その通りです。
本来はお話しするような事では無いのですが……クレアさんがしっかりと認識してしまった以上は仕方ありません」
「クレアちゃんってハイエルフなんでしょ〜。
初めて見ちゃったけど、私が見えるなんて凄いわね〜」
「そうだ!
この話何処かで聞いた事あると思ったけど、悪役霊障の話だ!!」
突然、シゾンが立ち上がって叫ぶ。
「悪役霊障?」
「うん、最近流行りの恋愛小説に悪役令嬢シリーズってのがあるんだよ。
何て説明したらいいのかなぁ……本来はヒロインと王子様の恋路を邪魔するライバルが実は良い人だったり、途中で改心したりして幸せになる話。
そのシリーズの中で異端として話題になったのが、悪役霊障って話だよ」
「ああ、それは当時城で働いていた侍女が書いた物ですね。
大体合ってる話ですよ」
「あの子とは仲良くさせてもらったわ〜。
一緒にお掃除したりして楽しかったのよねぇ」
「うむ、それは良いとしてじゃ。
ワシらは何故ここに呼ばれてお主達の生い立ちを聞かされたのじゃ?
何か狙いがあってのことじゃろう」
「そうですね。
ギルドマスターの事は他言無用でお願いします。
マスターはこう見えても諜報のプロです。
姿が見えない亡霊であるからこそ様々な情報を得る事に長けているのです。
しかし、その情報が出回ればそう言った行為もしづらくなるでしょうし、対策も練られるかもしれません」
クラリッサは亡霊であるので秘密の会話だろうがゼロ距離で聞くことが可能である。
更に宿で寝ている相手の夢の中に侵入し、剥き出しになった魂から情報を得る事にも長けていた。
だが、それも彼女の存在知られていないからこそ出来る事である。
知られればこの宿で秘密の会話をすることもなくなり、夢への侵入とて防ぐアイテムがあるかもしれない。
エメリアはそうした事を未然に防ぐために2人この別室へと呼んだのであった。
「もちろんじゃよ。
決して他で話したりはせぬよ」
「うーん、私はそもそも見えてないし。
見えないものをいるって言い張るような事は出来ないよ。
あとは…‥お姉ちゃんのことを絶対的に信頼してるから。
お姉ちゃんが言わないなら私も言わない」
「それを聞いて安心しました。
それでは、こちらがお二人の冒険者カードです」
エメリアはそう言って2人の名前が刻まれたカードを手渡す。
「そちらのカードにはお二人の魔力が通してあります。
カードを通して得られるサービスはこちらの別紙を参照してください。
これらのサービスを受ける時、クエスト受注時には本人がそのカードを持っている必要がありますので無くさないようにしてくださいね」
「分かったのじゃ」
「はーい!」