お手伝い
カフェの名前をムーンホースカフェにしました。
「急にこんな事頼んで……本当に申し訳ない」
現在、クレア達4人は制服の上にエプロンを付けてウェイターの仕事を手伝っていた。
本来、このホーンホースカフェでは店主が調理を。
そして、混雑時のお昼時はウェイター4人でホールを回していたのである。
しかし、この日に限って朝から出勤でしているホール担当リーダーのスイップさん以外がやむを得ない事情により休みを申し出てきた。
更にはクレア達が来店したことでお察しの通り、この日は学園の新入生が一斉に来店する一年でも特に忙しくなる事が確定している日だったのである。
そこで、開店からのんびりお茶をしていたクレア達に白羽の矢が立ってしまったのであった。
「気にせんでくだされ。
困った時はお互い様じゃからのう」
4人に謝罪しながらも店主の調理の腕は止まらない。
その大きな手からどうやっているのか分からないほどに細かい細工を施していく。
……そう、このカフェの店主は驚くべき事に大柄な男性であった。
大きな身体を窮屈そうにコック服に詰め込んだような姿のタイダーという名の店主。
カフェよりも荒くれ者達が集まる酒場のマスターが似合いそうな見た目とは裏腹に、繊細な細工を澱みなく仕上げていく様に4人は感心しきりであった。
「みんなにはテーブルを二つずつ担当してもらうわ。
頼まれたメニューを紙に書いてタイダーさんに渡してくれたらいいから。
出来上がった品物をテーブルに運んでもらうだけだから難しいことは無いはずよ」
4人が慣れていない事を考慮した無理なく出来る仕事の内容を頼むスイップ。
席の案内や会計など、その他の雑多な仕事は経験豊富なスイップがカバーするという布陣であった。
底辺の貴族とはいえ、しっかりと教育を受けていたファモとメローヌ。
80年という人生で教養を得たクレアと、そのクレアに育てられたシゾンにしても文字の書き取りに問題は無かったので仕事は極めて順調に進んでいった。
ただ、予想通りに今年の新入生の女性陣達が押し寄せてきたので、何故仕事をしているのかと言った問答はあった。
しかし、大半のお客達は中身はどうあれ、見た目は幼女なクレアが一生懸命働いている姿にホッコリとした気持ちになり、多少の不慣れな部分も目を瞑ってもらえたようである。
こうして唐突に頼まれた手伝いではあるが、特に大きなトラブルが起きるわけでもなく順調に終わらせることが出来たのであった。
「皆さん、お疲れ様でした!
今日は本当に助かりました」
混雑を乗り切った4人はスイップに案内された場所で寛いでいた。
そこは従業員が休憩で使う席らしく、外からは見えない個室となっている。
中央のテーブルには、賄いとして頼んだドリンクや甘味が置かれていた。
「こちらこそ、今日は良い体験をさせてもらったのじゃ」
「うんうん、楽しかったよね」
「偶にはこう言うのもいいもんだ」
「うふふ、家に閉じこもっていたら絶対に出来ない経験でしたわね」
「そう言って貰えると助かる。
お礼と言っちゃなんだが、この部屋は自由に使ってもらって構わない。
裏口から好きに出入りしてくれ」
こうして4人は手伝いの報酬として、人気店に並ばずに入れる権利を得たのであった。
如くで言うところのアジト入手イベントです。