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一階層突破

「お、お姉ちゃん?

前にシゾンの方が姉という話になった気がするのじゃが……」


「うーん、確かに実生活では手がかかるけど……やっぱり頼りになるし。

だからクレアちゃんがお姉ちゃんで私が妹!」


「……まぁ、今と大して立場が変わるわけではないじゃろう」


クレアが了承すると、前を歩いていたシゾンが振り向いてすりすりと近寄ってくる。


「えへへ〜お姉ちゃんだ!

私、お姉ちゃんも欲しかったから嬉しいな」


「全く……幾つになっても甘えん坊じゃのう」


「甘えるのはお姉ちゃんだけだから」


「やれやれ……しばらくは一人立ち出来なさそうじゃな」


甘えて抱きしめてくるシゾンの頭を優しく撫でるクレア。


偶々通りがかった同級生が、その光景の尊さに倒れそうになったのは、また別の話であろう。


ひとしきり甘えてお姉ちゃん成分を補給したシゾンの勢いはとどまることを知らなかった。


ゴブリン程度では彼女に傷をつける事は出来ず、その膂力から繰り出される棍棒の一撃は、その一発をもってゴブリンたちを屠っていく。


こうして勢いのままに進んでいけば当然のことながら、次の階層へと向かう階段のある部屋を見つけることが出来た。


「なんかあっさり発見できちゃったね」


「タイムロスが全くないからのう。

週替わりで中身が変わるダンジョンで、このペースで階段が見つからないほどに広いとは考えられぬよ」


「それもそっか。

階段を守るボスみたいなのもいないんだね」


「先はかなり長そうじゃからな。

キリの良い階層で出るかも知れぬが、今は時じゃないのじゃろう」


そう言いながらも警戒しつつ部屋を見渡していると、端の方に何かが置かれているのを発見する。


近づいてみると、それは錠前のついた赤い宝箱であった。


「あ、これがイズちゃんの言っていた鍵付きの宝箱かな?

お姉ちゃん、鍵使ってみてよ」


「うむ、そうじゃな」


シゾンに促されて鞄から鍵を取り出す。


錠前に鍵を差し込むと、回すことなくカチャリと音がした。


そして、鍵と錠前は崩れるようにボロボロと消えていった。


「さてさて、それじゃご開帳!!」


「どれどれ……これは武器と防具かのう?」


宝箱の中身は黒いモヤのかかった武器らしき形状のものと、衣類っぽい形状のアイテムであった。


「モヤがかかってるのは全部未鑑定品ってやつなんだよね?」


「うむ、鑑定持ちに頼むか、購買部の鑑定マシーンとやらを使う事で使えるようになるらしいのう。

まぁ、鑑定マシーンを使うには学園通貨が必要らしいがのう」


「冒険にもお金が必要なんだね」


「冒険にこそお金がかかるもんじゃよ。

さて、階段を降りたら直ぐにエレベーターがあるはずじゃ。

今日はそれを使って引き上げようかのう」


「りょーかい!」


こうしてクレアとシゾンのコンビは見事に初日で一階層突破という記録を打ち立てた。


今年の一年生でこれを達成したのは僅か2組だけである。

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