ジジイ×元ジジイ
本日三話目です。
イズとナグモ……2人の組み手にシゾンとテッドは圧倒されていた。
祖父と孫という関係と明かされたにも関わらず、互いを殺しにいくかのような本気さが伝わってきていたからだ。
経験の浅い2人はただ目の前で行われている事に呆然とするしかなかった。
その中でクレアだけは違った。
言われた通りに2人の足元を見て、重心の掛け方、足の運び、捌き……細かい動きを見ては、脳内で普段の自分の体捌きとの違いを見極めていた。
「ここまでにしておこう……強くなったな、イズよ」
「いえ……お爺様にはまだまだ敵わないという事を思い知らされました」
「この分野ではな。
お主が自分の分野で本気になれば、わしとてまともに戦うことは出来ぬであろう。
本当に自慢の孫だよ」
そう言ってイズの頭を撫でる眼差しは、先程殺気を放っていた者とは思えないほどに温かなものであった。
「お爺様、もうそろそろ授業の方を……」
イズは珍しく名残惜しそうにしながらもナグモの手を除ける。
「おお、そうだったな。
さて、今ので何が分かるものでもないとは思う……だが、このような激しい動きをしても足は地面に吸い付くように離れない。
この動きを目指してもらう。
もう一度摺り足で道場内を往復してもらおうか」
ナグモの言葉で再び3人は摺り足で道場内を歩くことになる。
シゾンとテッドは先程よりも足に意識を向けている……が、そのせいで最初よりも無駄な力が入りすぎていた。
だが、クレアはというとまるで足を意識せず、それが自然であるかのようにスッスッと歩いていく。
その所作はイズやナグモにも引けを取らないものであった。
「お主、先程までとは全く動きが違うようだが?」
「2人の組み手を見せてもらったおかげじゃな。
足捌きから重心の移動や腰の落とし方など実に参考になったわい」
「……なるほど。
神事を司る神子に選ばれるのは伊達ではないと言うわけじゃな。
イズよ、お主にはこの2人を任せる。
わしはこちらの方を引き受けよう」
「かっかっかっ、何やら楽しいことになってきおったのう。
同じジジイ同士お手柔らかに頼むわ」
「同じジジイ?」
クレアの言葉にまだ何の説明も受けていなかったナグモは首を傾げる。
「お爺様、実は……」
そんなナグモに対しイズがそっと耳打ちをするとナグモは驚いたように目を見開いた。
「なんだと!
そのような事が……」
「嘘みたいですが本当の話です。
なので、クレアさんはお爺様よりも先達という事になります」
「くふふふ、中々に愉快な話じゃろう?」
「う、うーむ。
確かにこの老練な佇まい……嘘ではないようだな」
「こうなってしまったからには楽しまなくてはな。
授業も遠慮なくお願いしますぞ」
「うむ、これは実にやり甲斐のある話だな」
ジジイと元ジジイ、何やら波長の合う所があったのか、2人は意気投合して訓練を始めるのであった。