ナグモ・アラタ
3-2話です。
エルリック冒険者育成学校から遠く離れた地。
和の国にある膝元と呼ばれる一番の都。
その都で一番大きな商会、阿良田屋。
阿良田屋の主人である、ヤクモ・アラタは紹介に送られてきた手紙を検分している真っ最中であった。
膝元で最大の商会でもある阿良田屋には毎日様々な手紙が送られてくる。
その大半は素性もしれない怪しいものだが、中には本当に美味しい話も混じっている。
そのためにこうして主人であるヤクモ自らが手紙のチェックを行なっていたのだが……
「これは……父さん!
父さん宛の手紙なんで確認してください」
「ワシ宛だと?」
「はい、阿良田南雲宛の手紙です」
ナグモは仕入れルートの開発と珍品収集のために今もなお現役で行商を続けていた。
その際の通り名は南風となっている。
また、阿良田屋では八雲が対応していて殆ど留守にしていることから、ナグモという名前の人物が阿良田屋にいる事自体、知る人が少ないのである。
つまり、阿良田屋にナグモ宛の手紙が届いている事自体が異常事態と言える出来事であった。
「まぁ、考えても仕方あるまい……先ずは中身を見てみなければ」
そう言って手紙を開封して読み始めたナグモ。
読み進めていくうちに温和な好好爺としていた表情が険しくなり、最後には憤怒の表情へと変わっていった。
そのあまりの様子に声をかけられなかったヤクモ。
ナグモが手紙を読み終わるのをじっと待っていたのだが……憤怒の表情とは裏腹に手紙を大事そうに懐にしまうとスッと立ち上がる。
「ワシは今から出掛けるから後のことは頼んだぞ!」
「え……何処に行かれるのですか?」
「エルリック冒険者育成学校だ!!」
そう叫ぶと同時にあっという間に身支度を整えたナグモは阿良田屋を飛び出して行ってしまった。
(今更孫の行方が分かっただと……ふざけるでないわ!!)
ナグモにとって初めての孫であったイズモ。
自分のことをお爺ちゃんと呼んで慕ってくれた、目に入れても痛くないほどに可愛い存在。
更に商人一族に相応しき鑑定の力を授かり、この力を役立てたいと言ってくれた孝行な孫。
そんな孫が自分の後を継ぎたいと言ってくれた時には天にも昇る心地であった。
そうしてエルリック冒険者育成学校に入学させたのだが……孫はそれから行方不明となってしまった。
夏休み、個人で受けたギルドの依頼中に消息不明。
学校側や元のギルドでも捜索活動を行ったが発見出来ず。
その報を聞いたナグモは嘆き悲しんだ。
だが、何処かで生きているかもしれないと思い、行商をしながら手掛かりを探したが全く見つからない。
数年が経ちもう二度と会えないかもしれない……そんな思いが込み上げてきた矢先の手紙であった。
「これがガセであったならどんな手を使ってでもあの学校を潰してやるぞ……物理的にな!」
商人とは思えない物騒な言葉を吐きながらナグモは旅路を急ぐのであった。