初恋、なおクラッシュする模様
テッド・オリル……彼は一般的な家庭に生まれた少年だった。
子供の頃から運動が得意であり、活発な男の子らしく英雄譚が大好きだった。
彼が7歳の時、世界を揺るがす大事件が起こった。
魔大陸の瘴気を払うという偉業を成し遂げた勇者が現れたのだ。
その勇者……エルリックの冒険譚を読んでいると彼には1人の師匠がいる事が分かった。
その人物の名前はグレーズ・アンデルスト。
エルリックの師匠であり、魔大陸の単独探索を成功させた人物。
女神の加護が無くとも偉業を達成したグレーズの方が、普通の家庭に生まれたテッドには好感が持てたのだ。
いつか憧れのグレーズのように魔大陸を探索したい。
そう願って冒険者ギルドの門を叩いたテッド。
更に炎拳という特殊なスキルを覚えたことと、従来の性格からリーダーシップを発揮して自信をつけたテッドは、魔大陸を探索する準備のためにエルリック冒険者育成学校へと入学する。
入学生の主席は座学で決まると聞いて苦手な勉強も必死にやった。
そうして自信を持って入学してみれば、主席の座は何故ここにいるのかもよく分からない少女に取られていた。
おまけにその少女はアンデルストの性を名乗り、偶々拾われたアンデルスト家の養子になったのだと言うではないか。
主席を取られただけでなく、憧れだったグレーズまで取られた気分だった……だからテッドは決闘を申し込んだ。
その後の最悪な展開を予想しなかったわけでは無い……それでも許せなかったのだ。
その結果が惨敗である。
こちらの攻撃は何一つとして当たらず、繰り出した奥の手の炎拳すら捌かれる。
そして無理にスキルを使い続けたせいで身体に限界が来て気絶……全く笑い話にもなりはしない。
自嘲気味にそんな話をするテッドの言葉をジッと聞くイズ。
「冒険者ってのは舐められたら終わりだって……先輩達に教わってきたんです。
なのに初日からこんなふうにやらかしてしまって。
辞めた方がいいんじゃないかって気もしてるんです」
「夢を諦めるんですか?」
「この程度で躓くようなら……」
「もう一度聞きますよ。
夢を諦めるんですか?」
真剣な表情で再度尋ねるイズに胸の中から込み上げてくるものがあった。
いつしかテッドは瞳から大粒の涙を溢していた。
「あぎらめだぐないでず!!」
イズは泣きながらそう答えるテッドの右手を取り、胸の前で両手で包み込む。
「分かりました。
ならば私に任せてください」
そう言って微笑むイズの顔を見た瞬間にテッドは時間が止まったような気がした。
人が恋に堕ちるという話を聞いても全く理解出来なかった気持ちが、いま分かってしまった。
こうしてテッドは見事に玉砕することが確定した初恋をしてしまったのであった。
死ぬほど落ち込んでいるところで、こんな美少女(男)に優しくされたら、10代の男の子なんてイチコロですね。
まぁ、年齢関係なく特効だとは思いますが。