許せなかった理由
「う……んん……」
テッドが目を覚ます。
見慣れない天井をボーッと眺めていると、段々と気を失う前の記憶が戻ってくる。
「そうだ、勝負は!?」
ふと勝負をしていたことを思い出し、思わず身体を起こす。
「うっ……」
だが、先程の勝負の影響か、妙に頭がクラクラして思わず額を右手で押さえた。
「目が覚めたみたいですね。
ですが、無茶は禁物ですよ」
誰かに声をかけられてそちらの方を見る。
そこには黒い髪をアップしたナース服に身を包んだ小柄な女性が立っていた。
「あんたは確か副担任の……」
ホームルームの時に端にいた女。
ナース服という奇妙な出立と妙に可愛らしい顔立ちのせいで印象に残っていた。
「イズです。
こう見えても貴方より年上ですから敬称か先生と付けて呼ぶんですよ」
「イズ……先生」
「良いでしょう。
さて、現状の把握といきましょうか。
入学して早々に冒険者資格の無い一市民と決闘。
更にはスキルまで使用。
これは冒険者ギルドの法に照らし合わせれば資格剥奪もあり得る蛮行です。
それは理解していますか?」
「……はい」
冒険者は資格制である為、当然試験もあればルールもある。
その中でも襲われて守る為ならばともかく、自分から冒険者資格の無いものに喧嘩をふっかけるという行為は最大の禁忌とされている。
更に例外はあれど、冒険者としてクラスを取得していないと使えないスキルを使ったとなれば資格の永久剥奪に加えてクラスも剥奪されることになるだろう。
「よろしい。
ですが、今回はクレアさんの意向と我が校の意向から冒険者も一市民の喧嘩ではなく、生徒同士の決闘ということで処理いたします。
クレアさんは貴方の才能を高く評価して若い芽を潰したくないと仰っています。
後でお礼を言っておくといいですよ」
「あいつが……そうですか」
ここまで完膚なきまでにやられたのでは、情けをかけられた怒りすら湧いてこない。
調子に乗っていた鼻っ柱を折られてこれからどうしたら良いのかも分からずにただ視線を落とす。
そんな中でふと自分の方をじっと見ている視線に気づくテッド。
「あの……なにか?」
自分の顔をじっと見つめる美少女に、ややドギマギしながら質問する。
「何か理由があったんですよね?
ああやって絡む理由が」
「……何故分かったんです?」
「テッド君の冒険者時代の評価はこちらにあります。
それをみている限りではこのような騒ぎを起こすようには見えませんでした。
ですから何か理由があるのだと当たりをつけた訳ですが、どうやら全くの的外れというわけでは無いですようですね」
「あいつの……クレア・アンデルストって名前が許せなかったんです」