色褪せぬ技術
「えーっと……これ、なんの騒ぎです?」
ワイワイと騒ぎになっている人の群れに引っ掛かることなく、中心まで歩いてきた人物がシゾンに声をかける。
「あ、イズさん。
おじいちゃんが冒険者上がりの新入生に喧嘩ふっかけられちゃってるんです!
あの身体になってからステータスも下がってる筈だから止めないと」
「あ〜うん……大丈夫っぽいですよ」
イズの視線の先では既に戦いが始まっていたのだが、拳を振り上げて殴りかかるテッドの攻撃を器用に捌いていた。
最初は口ではああ言いながらも手加減をしていたテッドだったのだが、予想していた手応えは一切ない。
それでムキになったテッドの攻撃は苛烈になっていくのだが、クレアはそれを踊るような手捌きと足捌きで見事に防いでいた。
「綺麗……」
その動きに思わず見惚れてポツリと呟くシゾン。
「見事なものですね。
身体能力は下がっても技術は失われません。
あの程度の攻撃ならクレアさんは目を瞑っても捌けますよ」
「そうなんですね。
やっぱりクレアちゃんって凄い!」
自慢の祖父が誇らしくて仕方ないと言わんばかりに目を輝かせるシゾン。
そんな彼女に賛同するように、周りの見物人達も驚嘆の声を上げていた。
(くそ、何でだ……何で当たらない!
何でこいつはこんなに涼しい顔をしてやがるんだ)
冒険者組合での活動では若手のホープと言われてきた。
常に周りを引っ張りリーダーとして活躍してきた。
そんな自分だからこそ、魔大陸の踏破という夢を制覇するのは俺だという自負があった。
憧れだったエルリック、そしてクレーズという英雄に追いつき追い越す為……彼はこんなところで躓いてなどいられなかったのだ。
「うおおおおお!!」
雄叫びと共にテッドの拳から炎が吹き出した。
「スキル!?
流石にあれは……」
テッドの暴走を察知して止めようと動くイズ……だが、そんな彼女の頭の上に何か重いものが乗っかってきた。
「何でおっぱい乗せてるんですか、先生」
「大きいと肩凝っちゃって。
ちょうど良いところに載せれる場所があったから助かったわ」
「そうじゃなくて……あれ、止めなくて良いんですか?」
イズ達の目の前では、手に拳を纏ったテッドが今まさにクレアに襲いかかろうとしているところであった。
「イズちゃん、あの人は私の師匠なのよ。
あんまり舐めない方がいいわ。
シゾンちゃんも安心して良いわ」
「あ、はい」
いつの間にか現れたエリーに驚きつつも決闘に目を向ける。
テッドが手から出した炎……それは意思があるように動きながらクレアに向かっていった。
「それよりも問題はあの男の子の方ね。
あれ、発動が終わったら即気絶コースよ」
「まぁ、そうでしょうね。
下手すれば死んじゃいそうですけど……気絶に留めておけと」
「そういうこと。
それと後のケアも頼んだわよ」
「はぁ〜入学式から面倒な事になりましたね」
「初恋ハンターの腕の見せ所じゃない」
軽口でそう言った後でエリーはハッとする。
先程までと雰囲気が一変したからである。
「先生……私、そのあだ名は呼ばないでって言いましたよね?」
「あ、あはは……つ、つい……ごめんね」
エリーが謝罪するとイズの憤怒のオーラが霧散する。
「分かればいいんです。
さて、決着したみたいなので回収してきますね」
イズのその言葉通り既に戦いは終わっており、平然とした顔で立つクレアと、その前で突っ伏して倒れているテッドという構図となっていた。