入学
3-2です。
季節は流れ……クレアとシゾンはエルリック冒険者育成学校へと向かう馬車に揺られていた。
「うう、スウスウするのう。
やはり今からでもズボンに……」
「クレアちゃんは女の子なんだから女子の制服着ないと駄目だよ。
それに、そんなに似合ってるのに替えちゃうなんて勿体無いよ」
初めてのスカートにモジモジするクレアを宥めるシゾン。
二人は入学式に合わせて制服を着て出発していた。
エルリック冒険者育成学校の制服は白のシャツに黒色のスカート、そして一見するとローブを羽織っているようなイメージになる、肩の部分が丸々無くなったブレザーを、肩の前後からサスペンダーで留めたものとなっています。
二人の制服はそ袖口とネクタイが赤のストライプとなっており、これは一年毎に青、緑と変わっていく。
つまり、今は一年生が赤、二年生が緑、三年生が青という事を表しているのだ。
「私は赤色が好きだったから今年入学できて本当に良かったよ」
「ワシは何色でも構わんがシゾンが満足しておるのであれば嬉しいのじゃ」
「クレアちゃんなら何色でも似合いそうだもんね。
それよりもスピーチ出来上がったの?」
「ううむ……何故にこのような事までやらねばいかんのじゃ」
「それはクレアちゃんが入学試験でトップを取るのが悪いでしょ」
来るもの拒まずの学校であるが入学試験はある。
基本を知らない者達が殆どなので、試験というよりはその人物の適性を調べるのが目的なのであるが。
同様に座学の試験もあるのだが、こちらもこれからこういう事を学びますよという事を生徒達に認識してもらう為に行なっている。
その中で座学の成績が最も高かった新入生が代表としてスピーチする事が決まっていた。
新入生からのスピーチという大仕事ではあるが、座学の成績が良いものなら何とかするだろうという安易な考えによるものである。
しかし、今のところはこの考えで失敗していない為に継続して行われている伝統となっていた。
そして今年の新入生代表は見事にクレアが勝ち取ってしまった訳である。
「80年も生きておればあのくらいの知識は当然持っておるからのう。
何だかズルした気分じゃわい」
「私はクレアちゃんがトップになってくれて嬉しいよ。
私の自慢のお爺ちゃんは凄いんだって皆が知って欲しいもん」
そう言って抱きついてくるシゾンを抱き止めて頭を撫でるクレア。
両親が不在がちだったシゾンにとって、ずっと一緒にいてくれた祖父は誰よりも大好きで憧れの存在だった。
姿が変わった後もそれは変わらず、同じ立場になれた事を誰よりも嬉しく思っていたのである。
「む、もうそろそろ到着じゃな」
「わぁ、久しぶりに来たけどやっぱり大きいね」
辿り着いた二人を出迎えるように開かれた校門。
どこまでも澄み渡る空は2人の新たな生活を祝福しているようであった。