寿命を延ばす薬
クレーズ・アンデルスト……伝説の冒険者として名を輝かせていた人物である。
瘴気の耐性が無いにも関わらず、魔大陸に挑んで生きて帰った人間。
そんな人物が勇者エルリックの師匠になるのは運命だったと言えよう。
イズがクレーズに会ったのは1年ほど前の事である。
老齢により寝たきり生活となっていたクレイズ。
いよいよの時が近いかもしれないと言う手紙を受けたエリーは、イズを連れて見舞いにいく事にした。
エルリックからエリーになって初めての対面だったのだが、クレーズは一目でその正体を看破した。
そこからはイズも交えて3人で和やかに会話し、エリーが
「あの師匠があれだけ穏やかになっているなんて……次に会う事は無いのでしょうね」
と寂しそうな顔で呟いていたのをイズは覚えていた。
イズも交流は一日のみであったが寂しく感じていた……のだが、そんなクレーズが変わり果てた姿で目の前に座っている。
美味しそうにお茶を啜るクレーズと名乗るエルフの幼女。
イズの視線に気付いたのか、お茶をテーブルの上に置く。
「うむ……何故わしがこのような姿になっておるか。
それを聞きたいのじゃろう」
「そうよ。
ハッキリ教えてもらわないと信用出来ないわ」
イズが答えるよりも早く、背後の方から声がする。
そこにはいつものスーツに白衣を羽織ったエリーが立っていた。
「ならば聞かせよう。
お主達が訪ねてきてから半年ほど経った頃であろうか?
息子夫婦が魔大陸から帰ってきたのじゃよ」
伝説の冒険者であるクレイズの娘もまた冒険者を志していた。
そして、同じパーティを組んでいた男性と結婚し、1人の子宝に恵まれたのだが、やはり冒険者の性なのか。
引退はせずに子供が大きくなったのを見計らって冒険者に復帰して魔大陸へと向かったのだった。
彼らはその旅で驚く事に寿命が延びる薬というものを発見した。
本来ならとてつもない額で取引される薬であるが、息子夫婦は自分達の娘の面倒を見て快く送り出してくれた父に、恩返しをしようとその薬を持ってきたのである。
このまま死ぬのも悪くないと思っていたクレーズであるが、息子夫婦の心意気に絆されてその薬を飲むことを決意。
結果……今の姿になったのだと言う。
「つまり、寿命が延びる薬っていうのは、種族をエルフに変える事で延ばす薬だったと」
「そのようじゃな。
それで頼みたい事があるのじゃが……わしを鑑定してはくれぬか?」
「普通の鑑定士ではダメだったのですか?」
「うむ……何やら人間だった時のわしの説明とエルフの説明が混じって何が何やら分からぬようじゃな。
そこでイズちゃんであればこの身体のことが分かるかと思い、ここまでやってきた訳じゃ」
クレーズはテーブルに両手をついて頭を下げる。
「クレーズさん、頭を上げてください。
先生の師匠のお願いなら喜んでやらせてもらいますから……それではちょっと見させてもらいますね」
イズがそう言って鑑定を発動する……すると、確かに2人のデータが混じったような説明文になっており、文字がバグっているようにしか見えない。
「何か分かったかね?」
「他の鑑定士の方と同じですね」
「そうか」
イズの答えに肩を落とすクレーズ。
しかし、イズは平然とした顔で
「ですが、この対処法は分かります。
解決できる問題ですよ」
と答えたのであった。