セット装備
「やぁやぁ、これは随分と綺麗になったものだね」
男子生徒との交渉を終えたアドゥラは上機嫌で自室へと戻ってきていた。
少し前まではゴミ屋敷のようだった部屋だが、現在はイズのおかげで綺麗に片付いている。
「殆どはガラクタだったので廃棄しておきましたよ。
多少なりとも価値のある物はそちらの箱の中に収納しています」
部屋を出る前は怒りの空気を出していたイズだが、今は平常時と変わらない様子である。
「相変わらずイズ君の鑑定は便利な物だね」
「だからと言って部屋を散らかしてまで強引に鑑定させようとしないでください。
頼まれればやりますから」
「それはそれとして片付けもお願いしたいところだがね。
いつも通りに報酬は鑑定した物から好きに……」
「もう頂いています」
イズはそう言うと鞄の中から白い布切れのような物を取り出した。
「話が早くて助かるよ。
参考までにそれが何か聞いていいかな?」
「ダンサーのセット装備一式みたいですね。
装備する事で踊りにプラスの効果があるみたいです」
「ふむ……使うかどうかはともかくとして興味深いね。
それにしても、イズ君にはどうしてそのようなセット装備ばかりが集まるのだろうね?」
セット装備……合わせて装備する事でその能力を格段に上げ、更に秘められた力をも解放するレア装備。
通常であればファイター用の鎧一式であったり、ソーサラー用のハットからローブにグローブと言った装備である事が多い。
だが、イズは無数のセット装備を持っているのだが、そのどれもがコスプレ衣装のような物ばかりである。
何故かそのような装備品ばかりが導かれるように集まってしてしまうのだ。
「それは僕が聞きたいところですよ。
……ところでさっきから気になっていたのですが、後ろで青い顔をした生徒は何なんです?」
「彼は私の実験に自ら協力を申し出てくれてね。
ちょうど試したい新薬があったので、元気なモル……被験者が手に入って嬉しい限りだよ」
嬉しそうに話すアドゥラの後ろでは、男子生徒が目だけでイズに助けを求めていた。
だが、イズはそれを無視して出口へと歩いていく。
「私達はお邪魔になりそうなのでお暇しますね。
ナハト、行きますよ」
呼ばれたナハトは気の毒そうにチラリと男子生徒の方を見る。
彼の目は絶望で死んだ魚のようになっていた。
部屋を出て定位置であるイズの頭の上に収まったナハトが口を開く。
「あの生徒を放っておいて良かったのか?」
「どうせ覗きか何かを見逃す代わりにと言われたんでしょう。
自分で受け入れたのであれば自業自得です。
それによくある事ですから」
「よくある事なのか……」
イズの答えに思わず言葉を失うナハト。
そのことを気にした様子もなく、イズは次の場所へと向かうのであった。