二つの人格と圧迫される器
「それで理由ってのは何なの?」
「やれやれ、少しは雑談を楽しもうと言う気はないのかね?」
「生憎とそんな気は無いから早く話してちょうだい」
飄々とした態度をとるレーアを軽く睨むシゾン。
だが、レーアは全く気にしていないようである。
「普通の人間はね、自分の姿が大きくかけ離れたものになると精神が耐えられないんだよ。
その落差が大きいほどに精神に与えるダメージは大きく、男から女に。
老人から若者に。
人間からハイエルフに。
ここまで大きくかけ離れてしまうと普通は心が病んでしまうのだよ」
「……でも、おじいちゃんは平気そうだったけど」
「本当に平気だったのならば薬を飲む前と変わらなかったはずだ。
だが、そうでは無いだろう?」
「それは……」
思い返せば学生らしくはしゃぐ姿や甘味を食べて喜ぶ姿など、クレーズの頃からは想像できないものであった。
「それは心が自分を守る為に見た目に相応しい人格を形成していった結果だ。
普通であれば病んだ心をかき消すように新しい人格に上書きされていくもの。
だが、君の祖父の心は普通の人より遥かに強靭だった。
それ故に上書きではなく融合してしまったんだよ」
「融合するとダメなの?」
「これが分離して二重人格のようになっているのなら問題なかったんだがね。
100の器の中に150の魂を無理やり注ぎ込んでいるような状態だ。
やがて器の方が耐えられなくなるだろう」
それがどういった状態かは分からない……だが、その言葉から良くないことであろう事は容易に想像ができた、
「だからお爺ちゃんの人格を分離させた?」
「そう言うことだね。
実際、一つの身体に入っている人格を丸々と抜けば普通は抜け殻となって廃人になるだろう。
だか、実際にはそうはならず、融合していた女性部分のみが残って活動を始めた……あれこそ魂が融合して肥大化した故に起こった出来事さ」
「………」
確かにシゾンも違和感は感じていた。
祖父の部分の性格が無くなったからと言って急に女性らしくなった。
そして無くなった祖父の人格を埋めるようにどんどんと女性らしく、理想の姉らしくなっていくクレア。
レーアの説明が本当であれば全てが納得のいく話であった。
「それで……お爺ちゃんとお姉ちゃんはどうなるの?」
「おや、みて分からないかな?
どうもこうもない……今まで通りさ。
既に対処はし終わった後だからね」