最後の試験官
「おや……ようやく辿り着いたみたいね」
「ようやくって、予定より早いんじゃないの?」
「言いたかっただけだからツッコまない。
それよりクラはここにいなさいよ。
私は出迎えてくるから」
「はーい」
レーアはクラリッサにそう指示して部屋を出る。
部屋の出口を60階層の大広間へと繋げており、出てきた場所は大広間の真ん中であった。
そこでしばらく待機していると大きな音と共に扉が開かれた。
「ようこそ、ダンジョンの最下層へ。
ここまで来るのを待っていたよ」
扉から現れた7人を前にしてレーアは余裕たっぷりに歓迎の意を示した。
「貴女が……お爺ちゃんを返してもらうわ」
「返すも何も……元からそちらにいるじゃないか。
ねぇ、クレアさん?」
「え、あの……正直私にはよく分かりませんが、返していただけるなら返して欲しいです」
「ふーん、なるほど。
本当に気付いていないみたいだね。
ほら、忘れ物だよ」
レーアがそう言って何かをクレアへと投げる。
だが、それがクレアの元に辿り着く前にシゾンがカットする。
「これは……お姉ちゃんの刀?」
手に取った物をまじまじと眺めると、それはクレアが今の状態になってから一度も手に取っていない、桜の紋様が入った刀であった。
「ねぇ、お姉ちゃん……これ……」
「ひっ……それを近付けないで!!」
珍しく声を上げるクレアに皆が驚く。
いつも笑顔を絶やさずに悠々と皆を見守ってきていたクレア。
その彼女が目の前の刀に対して目に見えて分かるほどに怯えていた。
「お姉ちゃん、どうしたの!?」
「やっぱり本能では分かってるみたいだね。
そう……実は最初からクレーズの魂は近くにあったんだよ。
その中にね」
レーアが刀を指差す。
すると刀がカタカタと動き出し、シゾンの手を離れてクレアの元へと飛んでいく。
「いやあああああ!?」
クレアが叫び声を上げるが時既に遅く……彼女の腰に佩かれた日本刀。
そして、抜かれた刀は彼女の手にすっぽりと収まっていた。
「……やれやれ、この身体も久しぶりじゃな」
「その喋り方は…‥お爺ちゃん!?」
「うむ、久しぶりじゃのう、シゾンよ。
そして皆の者も実に立派になったようじゃな。
クレアはそう言いながら全員が見渡せる場所……大広間の中央へと歩み、振り返って全員の顔を眺めてそう語った。
久しぶりにクレーズの魂が入ったクレアを見て全員が複雑な表情を浮かべる。
そんな彼女達の気持ちを知ってか知らずか…‥クレアは突然に舞を踊って自分を強化すると同時に、シゾン達にかかっていた強化を全て消した。
それと同時にシゾン達に向かって刀を構える。
「お爺ちゃん……何をしてるの?」
「知れたことよ。
真の卒業試験、その試験官に選ばれたのでな。
お主達の力を試させて貰うぞ」