過剰戦力
通路の向こうから迫ってきたのは巨大な蜥蜴の魔物。
更にその上にコボルトらしき生き物が跨っていた。
魔物の接近にいち早く気付いたファモとテッドはいつの間にか手に弓を構えていた。
お互いにどちらかを狙うかなどの確認はしていないが、各々の立ち位置からどちらがどの敵を狙うのかを理解した2人は無言で矢を放つ。
シゾン達からは未だ見えていないが、叫び声が聞こえたので無事に命中したのであろう。
「本業じゃないのにピンポイントで目を狙うなんてやるじゃん」
「そっちこそ一回で何発の矢を同時に放ってるんだよ。
それが全て急所に命中とかありえねえだろ」
「こっちは本職の意地があるからね……よし、セット!!」
ファモがそう叫ぶとメローヌが待ってましたと言わんばかりに大剣を持って回転を始めた。
「お、あれが大旋風のメローヌか」
「そんか二つ名付いてたの?」
「勢いが付いたら学園の教師ですら手に負えないってな……よっと」
ファモとメローヌがそう言いながら後ろに下がった事で先頭がメローヌへと変わる。
メローヌは何度目かの回転を終えて最高にスピードを乗せた一撃に力を込める。
そのタイミングでテッドが撃った方の蜥蜴とコボルトがやってくる。
片目が潰されてパニックになっているのか、一目散に真っ直ぐ進んでおり、騎乗しているコボルトの言うことも聞きはしない。
そんな暴走特急状態の蜥蜴とメローヌの回転する大剣が真正面から激突する。
ダンジョン内の全域に響くほどの激突音が鳴り響く……が、トカゲはこちらに突っ込んできた以上の勢いで反対側に吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。
当然のことながら背中に乗っているコボルトも同じように吹き飛ばされ、壁とトカゲに勢いよく挟まれて潰され、即死する。
その頃になってようやく、乗っているトカゲを潰されたコボルトがヨタヨタとやってくる……のだが、既に攻撃魔法の詠唱を終えたオヴァーニが五本同時に出現させた氷の槍が空を切り裂きながらコボルトの身体に突き刺さる。
「これ、過剰戦力過ぎるのでは?」
「皆が怪我無いのが1番よ」
出番がなくて呆れるシゾンと、皆が無事に乗り越えられそうな事に安堵するクレア。
今年の卒業生の中でも特に優秀な7人は、46階層以降でも過剰な戦力だったようである。