レンジャーの教師
3-2です。
「おや……気付きましたか」
「ドラゴン族の瞳はまやかしを見抜く力を持っておるからな。
だが、それでもハッキリとした姿は分からなかったが……」
「その方が良いです……世の中には知らない方がいいこともあるのですよ。
あの人は購買部のおばちゃん……そう言うことにしておくべきなのです」
ガラガラと荷車を押しながら校舎の前へとやってきたイズは、そこで一旦荷車を離す。
「今から各担当の教師達に会いに行きます。
この学校にはファイター、レンジャー、プリースト、ソーサラーの四つの学科があり、それぞれ別の教師が受け持っています」
「ファイターの担当はマリア先生であったな」
「とりあえずはレンジャー担当の先生に会いに行きましょう」
そう言って校舎の中に入ると、校舎内のあちこちから視線を浴びる。
イズは全く気にせずに2階へと上がり、その中の一室の扉をノックする。
「アドゥラ先生、中に入っても大丈夫ですか?」
「おや、イズ君かい?
ちょうどいいところに来たね」
「それでは失礼します」
許可が降りたので中に入る。
部屋の中には乱雑に物が積まれており……ハッキリ言えば汚い。
足の踏み場もない床であるが、イズは器用に僅かな隙間を器用に進んでいく。
「これは‥‥.言葉で表現できるものではないな」
「相変わらずですね。
何で一週間でこんなふうになるんですか?」
「ははは、我が研究のパッションの賜物だな!」
イズが部屋の奥までやってきて辺りを見渡す。
だが、アドゥラの声はすれども姿は見えない。
「また埋もれたんですか?」
「察しが良くて助かる。
では、いつも通りに……」
「その前に言うことがあるんじゃないですか?」
「…………助けてくれたまえ」
「仕方ありませんね……鑑定を使いますよ」
「是非もない、やってくれたまえ」
「鑑定」
イズが鑑定スキルを使うと、部屋に乱雑に置かれたアイテム達にウインドウが現れ、その詳細を表示していく。
目を凝らしながら、一つ一つのウインドウを見分けていくと、その中にアドゥラと書かれたものがあった。
一旦、鑑定スキルを解除してその辺りを注視する……すると、埋もれた物の中から左手らしき物が飛び出しているのが見えた。
「なるほど、そこですか」
イズはその手を引っ張り、そのまま入口の方へ放り投げる。
予め開けっぱなしにしていた扉から廊下に向かって飛んでいったアドゥラだが、空中でクルクルと回転しながら勢いを殺し、向かいの壁に着地するように両足をつく。
更にそこから壁を蹴り、足を上げながら270度回転して綺麗に地面へと着地した。
「やれやれ、相変わらず荒っぽいね」
そう言いながらスタスタと歩いてくる、緑色の髪を三つ編みにし、白衣を着た女性。
最大の特徴はその尖った耳。
彼女こそがエルフのレンジャー教師、アドゥラであった。
イズは他人に対して勝手に鑑定を使うことはやめています。
また、頼まれても気乗りはしません。
しかし、アドゥラはこの話からも分かるようにしょっちゅう埋もれては鑑定を使わせているので、感覚が麻痺しています。