後悔しない道
テッドがソロでクリアー出来た卒業試験である。
ここまでチームとしてもダントツの成績を残してきたシゾン達がクリアー出来ない理由など一つもなかった。
全員が今までの苦労を喜び合い、一つの区切りを迎えた事を感慨深く感じていた。
その夜、寮の部屋の中。
シゾンとクレアは窓の外を眺めながら今までの思い出を振り返っていた。
一通り盛り上がった後でシゾンがふっと真顔になる。
「私……お姉ちゃんが消えちゃうのは嫌だな」
それはクレーズの人格が消えて二年間をクレアと一緒に過ごしてきた素直な感想であった。
確かにクレーズの人格は消えてしまっていた……しかし、残ったクレアの人格も元を辿ればクレーズが一年間女の子として過ごして形成されたものだ。
それ故にシゾンは変わってしまったクレアをすんなりと受け入れる事が出来た。
そして、自分を支えて包み込んで甘えさせてくれる理想の姉となったクレアは、彼女にとってかけがえのない家族となったのだ。
もしも、ここで明日からの探索でクレーズの人格を取り戻した時、今のクレアはどうなってしまうのだろうか?
統合されるのか、それともクレアの方が強く残るのか……最悪はこの2年間が失われてクレーズの人格が無くなる前まで戻る可能性だってある。
そう考えるとシゾンはどうしても動き出す気持ちが湧かなかったのだ。
そんな気持ちを察したクレアはシゾンの頭を優しく撫でた。
「お姉ちゃん……」
「私も本当は怖いの。
今、みんながいて、シゾンがいて、みんなが明るく笑って私を受け入れてくれて……それはとても幸せで温かくて。
それが失われるかもしれないって考えると怖くて仕方ない」
クレアの言葉でシゾンは気付いてしまった、自分の頭を撫でる姉の手が震えていることに。
「お姉ちゃん……だったら!」
「いえ、それは駄目よ。
シゾンがお爺ちゃんに会いたいって気持ちは失ってないでしょ?
ここで見捨てて逃げ出したらシゾンは絶対に後悔する。
その後悔はシゾンが目指す冒険者になるのを徹底的に邪魔するはずよ」
「お姉ちゃん……」
「だから行きましょう。
その先に何があっても私はその運命を受け入れる。
だからシゾンも受け止めて生きて欲しいの」
「……うん、ありがとう。
お姉ちゃん、大好きだよ」
「私もシゾンの事が大好きよ」
シゾンが胸に飛び込んできたので、それを優しく抱き締めて包み込む。
そうして暫く抱き合った後は同じベッドに入って就寝するのであった。
諸事情により時間をすっ飛ばして終わらせにかかっています。
よろしくお願いします。