お淑やかなクレア
卒業試験の日からは春休みであるため、いつもなら実家に帰るつもりであったのだが、現状ではどう説明したら良いか分からずに見送る事にしたシゾン達。
それでもチームの仲間には現在のクレアの様子を話しておかなければと言う事で、全員を集めた。
女神のことを説明するわけにはいかないので、ダンジョンのトラップを踏んだ結果、記憶が混濁して年寄り臭い部分が無くなってしまったと言う苦し紛れの設定を説明したのだが、チームメンバーはすんなりと納得してくれた。
その要因として……
「あの……本当にごめんなさいね」
そう言って申し訳なさそうに謝るクレアの姿を見たからである。
今までと違い非常にお淑やかで品のある座り方をしているクレアは上流貴族の令嬢と間違えそうな雰囲気を醸し出していた。
「なんて言うか……こうなっちゃうとあのお屋敷の令嬢って言われても違和感ないよね」
「私、完全に礼節で負けてしまっている気がするんですが……」
ファモとメローヌはそう言いながら普通に受け入れてクレアと楽しそうにお話ししていた。
その様子は何処から見ても仲の良い女子グループと言った様子で、素直に受け止めてもらえるか心配していたシゾンは安堵していた。
「そ、その、クレアさんは大丈夫なんですか?」
「あやつがあの感じでは調子が狂うな」
一方でエルフ組の方はやや困惑しながらもクレアを気遣ってくれていた。
「巫女としてのスキルはそのままだから大丈夫だと思うよ。
ただ、いつ治るかは分からないかな。
ひょっとするとずっとこのままかも……」
自分で改めて言葉にして自覚したのだろう。
シゾンの顔がスッと曇る。
一瞬気まずい空気が流れかけたのだが……
「分かりましたわ!
こんな時は美味しいものを食べて元気を出しましょう!!
今日は私が奢りますからムーンホースカフェに行きますわよ」
と、メローヌが立ち上がり宣言する。
「そうそう、考えても気にしない事は気にしない。
メローヌの言う通り美味しいもの食べて元気だそうよ。
何をやるにも元気が無きゃ」
「ファモ……メローヌ……って、うわわ!
ちょっと待って!!」
2人を見つめるシゾンの両脇についたファモとメローヌは彼女を強引に立ち上がらせると、そのまま身体を掴んで外まで連れ出していった。
「あの子は本当に良い友達に恵まれていますね」
「何を他人事のように。
お主も、私達も、全員が友達じゃろう」
「そうですよ!
だからクレアさんも一緒に元気出しに行きましょう」
その様子を見守っていたクレアであったが、オヴァーニとデアンも彼女にそう声をかけて外へと連れ出していったのであった。