クレーズとクレア
「えっと……性癖が歪んだってどういうことです?」
「先生が自分を女性にしてくださいなんて願ったせいで、屈強な男が、見た目だけじゃなくて心まで女性になっていく過程が好きになっちゃったんですよ」
「へぇ〜なんだかよく分からないけど、そういう世界もあるんだね」
「師匠の場合、他人事じゃないんだけど」
「あっ!?」
そこでシゾンは思い当たってしまった。
身近にいる屈強な男から女性になってしまった人物を。
その人物は確かに元の性格を残しつつも少しずつ女性らしさを身に付けていたことを。
「恐らくですが、クレアさんが女性らしいのは、今の姿になってから積み重ねて出てきた女性の部分なんだと思います。
クレーズさんだった部分は封印されているのか……それとも……」
「あれ……でも、そう考えると今の姿こそ本物のクレアちゃんって事にならないかしら?」
ふと、何となく聞こえてきた言葉の雰囲気だけを感じ取ってエリーがそんな事を言い出した。
「……それはあながち的外れとも言えないかもしれませんね」
「私は吹っ切れてたからすぐに馴染んだけど、本来は女性の身体に男の人格が残ってるなんてキツいだけよ。
師匠は一回天寿をまっとうしかけたから枯れてるけど、その若い身体ならこれから幾らでも青春を全う出来るはずだし。
それを考えると……」
イズとエリーは微妙な表情でクレアを見る。
これからハイエルフの女性として長い人生を生きていくのであれば、クレーズとしての男の人格は寧ろ足枷になるかもしれない。
そう考えると……何が正解なのか分からなくなってしまったのだ。
「……それでも……それでも、私のたった1人の大好きなお爺ちゃんなんです!
こんな唐突にお別れになるなんて……」
シゾンは顔を手で覆い泣き始めてしまった。
辺りの人間がどうしたら良いのか分からない中、クレアはシゾンの身体を抱きしめた。
「ごめんなさい、私の話だと言う事は分かるけど何の話なのか全然分からなくて」
「お姉ちゃんが悪いわけじゃない。
でも……でも……」
「そうね。
だから、何が最善か分からないならその女神様に会いに行きましょう。
きっと、そこに答えが待っていると思うの」
「……でも、そこに行ったら今度はお姉ちゃんが消えちゃうかも」
「それでも、私はシゾンのお姉ちゃんだから。
貴女が会いたい人に会えるように手伝わせてもらうわ」
「うっ……お姉ちゃあああああん」
シゾンはクレアの腕の中で激しく泣きじゃくり始めた。
その2人の姿を見て、イズとエリーはこれから先どうなるか分からないが、この2人ならきっと大丈夫だろうと確信するのであった。