ジジイ達の技
通常、卒業試験の規定により45階層までしか行く事が無いダンジョン。
だが、その先を見つけたナグモに誘われてクレアは共に46階層へと降りてきていた。
「何やら面白そうな気配が多数するのう」
「うむ、久しぶりに血が沸き立つ思いだな」
普通の人間であれば怖気ついて逃げ出しそうな気配を感じながらも、2人は笑みさえ浮かべて先へと進んでいく。
「その先から何かが来ておるぞ」
「うむ、分かっとるわい。
敵をこちらに向けさせるスキルを使うのでお主は援護を頼むぞ」
「了解じゃ」
軽い打ち合わせを終えた後に向こうからやってきたのは蜥蜴型の魔物であった。
だが、その体長は3メートルを超えており、口の端から炎がチラチラと漏れている。
蜥蜴はその短い足からは考えられないほどに俊敏な動きでナグモへと襲い掛かる。
クレアに対して見向きもしない辺り、ナグモが話していたスキルが効いている証拠なのだろう。
ナグモは腰に下げた刀に手を掛けると、腰を沈めて構えを取る。
蜥蜴はそんな事を全く気にせずにナグモへと突っ込んでいくのだが、彼の間合いに入った瞬間に唐突に斜めに逸れていく。
その勢いのままに壁へと激突し、衝撃でダンジョンがグラグラと揺れた。
多少のダメージは受けているものの、まだピンピンしている蜥蜴はクルリと反転してナグモの方へと向き直る。
首を上げて大きく息を吸い込み、口の中で燃え盛る息を吐こうとした時であった。
「ピアシング……インパクト!!」
クレアは両手に持った閉じた扇の先端を蜥蜴の脇腹に押し当てる。
そこから扇の先端から其々に特性の異なる凝縮した風の塊を撃ち込むと、反動で右手は水平に仰け反り、左手は大きく上に跳ね上げられる。
右手から放たれた風は蜥蜴の皮膚を突き破って体内で暴風となり、左手から放った風はトカゲの巨体を吹き飛ばして壁に叩きつける。
更に体内に風が入り込んだ事で蜥蜴が息を吸い込んで放とうとした火炎が体内で燃え盛り、その身体を内側から焼き上げる。
丸こげになって消滅した蜥蜴を確認しつつ周りに敵がいない事を確認して戦闘体制を解く2人。
「まさかそこまで扇を使いこなしておるとは。
こちらに関してはワシが教えられることはないな」
「ならば先程の刀の技を聞きたい所じゃのう。
あれは目にも見えぬ速さで抜刀して三半規管を狂わせて方向を変えたのであろう」
「初見でそこまで見抜くならいずれ使いこなせるだろう。
若く才能のあるやつならともかく、同じ世代のジジイに手取り足取り教えるようなものでは無いわ。
知りたければ見て盗め」
「ここでならその機会に困らなさそうじゃな」
階層の重い雰囲気とは裏腹に軽口を叩き合いながら2人は更に先へと進んでいくのであった。