ダンジョンの最下層にて
ダンジョンの地下奥深く、そこには暗く陰鬱なダンジョンの雰囲気とは真逆の広くて明るい部屋があった。
「うふふ、3組とも本当に楽しませてくれるわ。
姉妹愛、技の伝授をされた弟子の奮闘。
かつてはわだかまりを抱いていた2人の仲直り。
どれも創作活動が刺激されてたまらないわね」
その部屋の端では女性がカリカリと紙に何かを書きつけている。
「相変わらずの覗き趣味なのね」
女性の近くに音もなく現れたのはクラリッサの本体であった。
「あら、また来たの?
最近よく来るわね……喧嘩でもしたの?」
「貴女、見て分かった上で言ってるでしょ。
もう鎮火はしてるんだけど暫くはあっちに本体を置いておきたく無いのよ」
「自業自得でしょうに。
あれだけ愛されてるんだから大事にしてあげなさい」
「あの子の場合、愛と忠義を同時に扱ってるからとにかく重くって。
ほら、重たいものばかり食べてたら軽いのを摘みたくなるでしょ?」
「私は止めないけど……それがバレてああなったんだから少しは節操を持ちなさいよ」
「それ……貴女に言われたく無いわ」
クラリッサが視線を移すと、そちらには山積みになった原稿用紙がいくつも置いてあった。
「今年に入ってから創作意欲が止まらないのよ。
こんなのエリーてイズちゃんのコンビを見て以来だわ!」
「ああ〜そのレベルなんだ。
これはまだまだ止まらないわね」
「失礼します。
……ああ、クラリッサさんはこちらにいらしたんですね」
部屋に入ってきたのは先程の会話に出てきたイズであった。
「わーお、タイムリー!」
「クラリッサさん、こちらはエメリアさんから預かっている手紙です。
ここにいるだろうから、部屋に寄ったときに渡してくれと言われてました」
そう言ってイズが懐から手紙を渡すと、クラリッサは霊体である為に汗をかかない筈なのに額からダラダラと汗が噴き出ていた。
「あんたの行動筒抜けじゃない」
「ま……まぁ、重たい愛には応えなくちゃダメよね。
そ、それじゃ今日はこの辺で」
スーッと浮上して天井をすり抜けていくクラリッサ。
「それで私の方への用事は何かしら?
イズちゃんはあいつと違って用もなく遊びに来る人じゃ無いでしょ?」
「6人への褒美は貴女の仕業ですか?」
「ここに来てそれを言ってくるという事は確信してるんでしょ。
あれは私の創作活動を手助けしてくれた報酬よ。
次回からはしないわ」
「それなら良いんです。
貴女があまり肩入れすると大変な事になりますからね。
用事はそれだけですので」
そう言って一度礼をしてエレベーターに乗るイズ。
「あら、つれないのね」
エレベーターが動いてイズが去ったのを確認した女性は再びテーブルに向かって何かを書き始める。
「まぁ、あの面白い娘にだけは色々と差し入れしても問題ないでしょ」
そう言って彼女が目を向けた場所には、食堂で美味しそうにプリンを頬張る銀髪のエルフの姿が映し出されていた。