ときめきの微笑み
5-4です。
「う……ううむ……」
ソファの上で丸くなって寝ていたナハト。
しかし、周囲で鳴るカチャカチャという音で目を覚ました。
「あ、起こしてしまいましたか?」
目を開けると彼の主人がキッチンで作業を行なっている。
「本来は眠る必要のない身体の筈なのだが……いつの間にやら眠っておったらしい」
「小さくなった影響かもしれませんね。
眠る事自体は良い休息になるので悪い事ではないですよ」
「主人の方こそ身支度をすっかり終えているが、しっかりと睡眠は取れたのか?」
エリーとイズの寝室は防音がしっかりしているのか全く物音は聞こえない……しかし、ナハトは外から唯ならぬ気配を感じていた。
その気配を感じつつも初めて感じる睡魔に抗う事ができずにいたナハト。
明らかに自分よりも後に就寝したはずのイズが、自分より早く起きて活動していることに戸惑いを感じていたのだ。
「この身体になってから睡眠よりも食事でエネルギーを回復する割合の方が大きいみたいなんですよね。
だからお腹が空いちゃって……ナハトは朝からご飯食べれますか?」
「主人の料理は非常に美味だったから頂こう」
「ありがたい話ですが、この装備の恩恵が大きいですね」
そう言ってイズは自身の服装を見せびらかすようにその場でくるりと回る。
彼女が今着ているのはオーソドックスなメイド服で髪はツインテールに、頭にはヘッドドレスが着けれられている。
「この服はセット効果で作成結果にプラスの効果が働くんです。
だから美味しく感じたんですよ」
「それでも元の料理の味が美味くなければ効果は薄かろう。
やはり、主人の料理の腕が確かであるからこそ、その効力を十全に発揮できていると思うぞ」
ナハトの言葉に一瞬驚いた表情を見せたイズであるが、直ぐにいつもの無表情に戻る。
「はっきり褒められる事がないので驚きましたが……中々嬉しいものですね。
ナハトが人間だったらときめいていたかもしれません」
そう言って突然にっこりと微笑んだイズに今度はナハトの方が驚く。
「今の不意打ちで我の方が心が揺るがされてしまったではないか」
「それなら笑顔を見せた甲斐があったと言うものです。
さ、朝ごはんが出来たので食べましょう」
そう言ってイズはナハトを持ってテーブルの方へと移動する。
「今日も朝軽く豪勢であるな」
「先生と一晩過ごした後は特に食べておかないと持たないんですよね。
それじゃ、いただきます」
「うむ、いただくとするかの」
こうして1人と一匹はテーブルを囲んで食事を始めたのであった。