技を継ぐ者
クレア達が強敵と戦っていた時、ファモとメローヌのコンビは順調に見回りをこなしていた。
「この通路の先の広間に二匹の気配を感じる。
多分ジャイアントスパイダーとコボルトの上位種の組み合わせだと思う」
「ソフトインセクトはファモにお任せしましょう。
コボルトの上位種なら装備がしっかりしているでしょうから」
「オッケー、開幕は矢を撃ち込むから一気に奇襲をかけて!」
ソフトインセクト……その名の通りに柔らかい肌を持つ虫達は要注意と言われている。
身体の硬いハードインセクトはその硬さを全面に押し出して力技で来るので対処しやすいが、ソフトインセクトは基本的に何らかの毒を行使した攻撃を行う。
搦手はハマると即座に不利になるため、そうなる前に倒すと言うのが定石なのだ。
「いくよ……ゴー!!」
そう言ってファモが解き放った矢は狙い通りにジャイアントスパイダーの柔らかい腹部に突き刺さる……それも2本同時に。
「……負けてられませんわね」
部屋に飛び込んだメローヌは異常事態に驚き立ち上がったコボルトに対して鋭い前蹴りを放つ。
予想通りに硬い鎧を着込んでいたコボルトにダメージは入らないものの、蹴りで吹き飛んだ事で2人の間に多少の距離が開く。
十分な距離が開いたことを確認したメローヌは大剣を横に構えて回転を始める。
「師匠直伝の奥義、思う存分その身で味わってください!」
一回転しながら距離を詰め、さらに半回転の勢いを加えた一撃をコボルトに叩き込む。
後のことなど考えない全身全霊の一撃はコボルトを激しく吹き飛ばして壁へと激突させた。
「おーほっほっほっ、さすがは師匠直伝の必殺技ですわ」
「それって連撃に繋げる為の技じゃなかったっけ?」
「連撃なんて性に合いませんわ。
喰らえば即死する一撃を叩き込む。
これに限りますわ。
ファモこそいつの間にイリスさんの技を?」
「へへ、教わってからこっそり練習してたんだよね。
とは言っても今回みたいに奇襲するくらいの余裕が無いと上手くいかないんだけど」
メローヌとファモは夏休み前半にアンデルスト家に逗留していた。
そこで貴族のマナーを学びつつ、先輩冒険者でもあるメイドや執事の訓練にも参加させてもらっていたのだ。
そこで面倒見が良く、同じ得物を使っているカプスとイリスが2人を指導していたのであった。
こうして2人の技を継いだファモとメローヌ。
今はまだ師匠の足元にも及ばない2人であるが、いつかは超えていく……かもしれない。