向かいのライバル店
「う〜む、また腕を上げたんじゃないかのう?」
クレアの前に置かれた大きめのパフェ。
その中身を掬って口に運んで呟く。
「具体的に何処がって聞かれたら困っちゃうけどね。
でも、前に来たときよりずっと美味しくなってるよ」
クレアの隣で同じサイズのパフェを食べながらシゾンも同意する。
「うん、本当に前よりも味に深みが出てるって言うのか?」
「ええ、使われている材料が増えているにも関わらず、前回よりも調和が取れているように感じますね。
どれほど研鑽を重ねればこのようなスイーツが作れるようになるのやら……店主には尊敬の念すら抱いてしまいますよ」
ヨーデル姉妹はクレア達よりはややしっかりとした感想を出している。
そして……
「デアンさん!
これ、この白く溶けるのすごいですよ!!
口の中で溶けて無くなって……すごく、すごいです!」
「なんだこれは……甘くて冷たくて、苦味もあって……ほぅ……」
エルフ組はと言うと、オヴァーニは一口毎に全く同じ意味の言葉を繰り返しながら感動し、デアンは一口毎に思考がストップしたかのように呆けていた。
「どうやら満足してもらえたみたいだな」
そんな6人の様子を見に来た店主が満足そうに頷く。
「うむ、また一段と腕を上げたみたいじゃのう。
この通り、皆満足しておるよ」
「ああ、向かいにスゲェ店が出来ちまったからな。
俺もまだまだ負けてらんねぇと思って張り切っちまったのよ」
ガッハッハと豪快に笑う店主だが、その一言で場の空気がピシャリと凍った……いや、状況を理解していないエルフ組だけはそのままなのだが。
「向かいのお店って……さっきのカリー屋ではありませんか?」
「あれってクレアちゃん所の……」
「うん、嬢ちゃんがどうしたんだ?」
「店主、すまぬ……あの店はワシの家が出しておるのじゃ。
こちらの店の邪魔をするつもりはないので、面倒ならば移転……」
クレアがそう話すと、話の途中で店主の目がクワっと開く。
「あの店は嬢ちゃん所が出してたのか!
じゃあ、ナイリさんの言ってた恩人ってのは嬢ちゃんの事だったんだな!?」
「う、うむ……すま……」
「あんないい店出してもらって本当に感謝してたんだよ。
それが俺も恩のある嬢ちゃんの店だって言うなら最高じゃねえか。
本当にありがとうよ!」
「ぬ!……へ?」
これまた豪快に笑いながら感謝の言葉を述べる店主。
その態度が予想外すぎて珍しく呆けるクレアであった。