トラウマスイッチ、オン!!
「相変わらず美味しかったね」
「寧ろ以前よりも美味しくなっていたのではないか?
研鑽を怠らぬその精神、きっと今よりも更に繁盛するであろうな」
「本当に美味しかったぁ……また来たいなぁ」
「クレアさん達が行く時には是非またご一緒させてください」
カリー屋を後にした後、クレアとシゾンにヨーデル姉妹はわいわいと騒ぎながら次の目的地を目指していた。
一方でオヴァーニとデアンはと言うと……
「デアンさん、いい加減正気に戻ってください」
「……カリー……まさか、あんなに……」
放心状態のデアンをオヴァーニが無理矢理引っ張っていた。
そもそも食生活が全く発展していないエルフ達。
そんな中でカリーの中でも特に美味しくなった物を食べたのだ……その衝撃は計り知れないものであろう。
「みなさーん、待ってください!!」
「あれ、デアンってばまだ正気に戻ってないんだ。
仕方ないなぁ」
デアン達の様子に気付いたシゾンは2人の元に戻ってくるとデアンを抱き抱えて持ち上げた。
その体制はもちろんお姫様抱っこである。
「ありがとうございます。
その……重くないですか?」
「全然。
エルフって皆痩せてて軽そうだし、その上デアンくらいの体格なら楽勝だよ」
という事で放心状態のデアンを抱き抱えたまま、一行は次の目的地である冒険者ギルドへと向かった。
ギルドの中に入ると、相変わらずエメリアが受付におり、クレアの目にだけいつも通りに掃除をするクラリッサの姿が見えた。
「ここが冒険者ギルドですわ。
お二人はまだダンジョンに入っていませんが、一層をクリアーした暁にはここで登録を行う事が出来るのです」
「エメリアさん、やっほ〜。
今日は新人になってくれる子達を連れてきたよ」
「おや、こんにちわ。
……エルフとは大変珍しい方が入学されたようですね」
実のところ全ての実情を知っているエメリアであったが、ここを離れてエルフの里に行っていたという話は極力隠したかった。
その意図を察したのか、オヴァーニはペコリと会釈するだけに留めていた。
しかし……
「……カリ……うん?
この気配は……げえええええええええ!?」
エメリアの姿を見た途端にデアンは正気を取り戻しつつ、叫び声を上げながらシゾンの腕の中から飛び降りて後ずさった。
やはりデアンからすれば一連の事件はトラウマになっているのだろう。
だが、エメリアはそんなことはお構いなく席を立ってズンズンと近づいていく。
ギルドの壁まで後ずさったデアンに対して、右腕で後ろの壁をドンと突きながら顔を突き合わせた。
「どうしてそんなに怯えているのか分かりませんが……初めまして、エメリアと申します」
にっこりと微笑みながら自己紹介するエメリアだが、その笑顔には圧力があった。
このまま話を合わせろという。
コクコクと頷きながら何とか言葉を紡ぎ出そうとするデアンであったが……
「……あっ」
という絶望的な一言と共に妙な水音がクレア達には聞こえてきた気がした。
その瞬間にデアンの姿は消えて後には何も残されていなかったのであった。