カリスマ
裏口から案内された6人はVIP室と呼ばれる部屋に通される。
「まさかここがクレアちゃんの店だなんてね」
「それならそうと仰ってくださったら良かったのに
「いや、ワシらも初耳じゃったから……というか、厳密にはワシの店と言うわけでは……」
「いや、お姉ちゃんのお店で良いんじゃないの?
そうしといた方が今後も来たくなった時に便利そうだし」
「むむぅ……ま、まぁ、その話はおいおい考えるとするかのう」
「デアンさん、ここで食べられる物は信じられないくらい美味しいですよ」
「食べる前からそんなにハードルを上げて大丈夫なの?
……匂いが良いのは認めるけど」
席に着くなりワイワイと騒ぐ6人はどこから見ても普通の女子学生に見えるだろう。
そんな彼女達の元に店長であるナイリが挨拶に訪れる。
「クレア様、シゾン様、ご挨拶に来るのが遅れて申し訳ありません」
彼女達に向かって深々と頭を下げるその姿は紛れもなく、以前に偶然助け、アンデルスト家に逗留していたナイリであった。
「よいよい、繁盛しておるようで何よりじゃて」
「お陰さまでございます。
こちらの街は活気があり、目新しい物を積極的に取り入れてくれる気質があったおかげで何とか軌道に乗せる事ができました」
「ここで大成功と浮かれずに謙虚さを忘れぬのは期待が持てるのう。
それにしても、ワシらは本当に並ばずにこのような部屋を使わせてもらって良かったのかのう?」
「何をおっしゃいますか。
こちらの部屋はクレア様が訪れたときに案内するために作らせた物であります。
ですのでそのような遠慮はご無用です」
「お、おお……そ、そうか。
そ、それは……ありが……とう?」
ナイリのあまりの熱量に押されたのか、クレアにしては珍しく歯切れ悪く答える。
「勿体なきお言葉です。
それでは皆様の為に最高の一杯を振るわせてもらうべく準備に取り掛かります」
そう言って去っていくナイリの姿が見えなくなるのを確認してから、クレアはシゾンに語りかけた。
「のう……少し怖いんじゃが」
「あれは完全にお姉ちゃんのカリスマにやられてたよね」
「お話を聞くに危ういところを助け出した上に資金を全部出資してここに移転させたのでしょう?
それならばああやって盲信してしまうのも仕方ないかと」
「私達だって偶に崇めたくなる事あるもんね」
「その気持ち分かります!
クレアさんって時々、すごくて……その、凄いですよね!」
「オヴァーニ……薄々感じたはいたけど語彙力が無いわよね。
貴女の兄はあれほど口が達者だと言うのに。
それは置いておくとしてもクレアさんが尊敬に値すると言うのは分かるわね」
「むむむ……」
クレアが期待していた答えとは真逆の答えで盛り上がり始める5人。
その話題に自分が突っ込んでいくのは良くないと感じたのか、カリーが出来上がるまで大人しく待つしかなかったのであった。