死んだ筈の人
「やはり行かれてしまうのですか」
「うむ、ワシにはやるべき事があるからのう」
エルフ達を説得してから2日後の朝、クレア達は屋敷に戻る事にしたのであった。
冒険者ギルドの建設に関しては既に戻ったエメリア達が手配している事であろう。
しかし、阿良田商店に関しては先ずはナグモ達の実家である阿良田商店と連絡を取らなければいけない。
結界が切れたとはいえ、それに気付く者はおらず、元々人が近付かなかった地域である。
更にエルフ達自身が長命から戦闘力に長けた者が多い。
自分たちがここでやれる事はすでに無いと悟ったクレア達は一旦戻る事にしたのであった。
「まぁ度々様子を見にきてくれはる言うとるから我慢しぃや。
姐さんの安全はワイがしっかり守ったるさかいな」
「あの、私も頑張ります!」
キンハーは学園の教師という立場もあり残る事は選択しなかった。
更に妹であるオヴァーニも外の世界を見てきたいと同行を願い出たのである。
そこで2人はクレアの護衛という名目の元で里を出ると名分を得てついてくる事になったのであった。
エルフの里としても、外の世界を知らない者よりも知っている2人が巫女の護衛につくのが良いだろうと反対意見は出なかった。
こうして全ての準備を整えたクレア達はエルフ達から渡された土産を馬車に積み込んで出発した……その積み荷の一つは時折ガタガタと動いていたのだが。
こうして行きのメンバーと変わらない面子でエルフの里を後にして3時間ほど経った頃であろうか。
「誰かが追ってきている気配はありませんね」
「ならばもうそろそろ出してやって良いのではないか?」
イズの言葉にクレアが返し、その言葉を聞いたカプスとイリスが頷いて積み荷のうち、ガタガタと揺れる箱の蓋を開けた。
その途端に中から1人のエルフが飛び出してきた。
「ぷはぁ……まさか私が逃げるように里を後にする事になるとは思いませんでしたよ」
積み荷の中から姿を現したのは死んだという事になっていたマタンであった。
但し、その姿は何故か小さく、幼くなっており、見た目の年齢は少し成長したクレアと変わらない程度である。
「仕方あるまい。
あのままお主が里に残っても悪影響を及ぼすだけじゃからのう」
「それは分かっています。
寛大な処置を授けてくれた巫女様には感謝しても足りません」
「良い良い、死んだところで何も変わりはせんからのう。
それよりも自由の身になってみた気分はどうじゃ?」
クレアの問いにマタンは目を閉じて考える。
そして考えが纏まったのか、しばらくしてから目を開いて答えた。
「驚くほどに未練も何も無いのですね。
こんなにも軽く感じるなんて思いませんでしたよ」