ナンパな人の結末
「おつかれおつかれ〜!
いや〜まさか500年も前の事で動く事になるなんて思わなかったね」
クレア達がエルフの里をまとめ上げている頃、エメリアとクラリッサは学園街の冒険者ギルドへと戻ってきていた。
クラリッサはあちこちに分体を仕込んでおり、分体の一つを選んでそこに本体を飛ばすことができる。
更にクラリッサの宿主であるエメリアも連れていく事が出来るのだ。
あらかじめイズがクラリッサへと話を通しておき、分体を自分の身体に取り憑かせていたのだが、オヴァーニの告発によりエルフの里がきな臭いという事が分かり、分体が偵察をした事で発端に気付いた。
自身が発端である為に本格的に動く事にしたクラリッサに付き従う形でエメリアも救援に動いたというわけである。
こうして無事に後始末を終えて帰ってきたところでエメリアを労っていたのだが、何故か彼女の表情は硬かった。
「あれ、ご機嫌斜め?
確かに手間をかけさせたのは悪かったけど、まさかこんな事になるなんて思わなかったから仕方ないと言うか……」
「姫様……私以外の身体を使いましたよね?」
「えっ……あ、ああ!?」
その一言でエメリアが何に対して拗ねているのかを思い出す。
目の前の自分に従う女騎士はとてつもなく嫉妬深くて独占欲が強かったのだ。
「いえ、良いのです。
一回の騎士に過ぎない私では姫さまは満足できないのでしょう。
姫様の為されることに間違いはありませんから、この気持ちを持つ事こそ不敬なのでしょう」
そして一度拗ねると途轍もなく面倒くさい女になる事も忘れていた。
なにせここ百年以上の時の中でこうなった事が無かったから仕方ない。
クラリッサは何度もエメリアが一番だ。
あれは仕方なくで本当はやりたくなかった。
他の人の身体を操作して分かった、やっぱりエメリアの身体が一番だ。
などとまるで浮気がバレたナンパな男のような言い訳を繰り広げる。
そうしてひとしきりの言い訳を聞いたところでエメリアがクラリッサに微笑む。
「姫様、意地悪をして申し訳ありません。
姫様がそれほど私のことを思っていてくださったと分かり光栄の極みです」
「あ、ああ、うん……分かってくれたなら良いんだよ」
ようやっと引き出したエメリアの笑顔に安堵するクラリッサ……そのせいで油断していたのだろう。
「ところでクレア様のお身体の使いこごちはどうでしたか?
ハイエルフなのですからさぞ凄かったのでしょうね」
「いや、それが本当に凄かったよ。
魔力の底が無いっていうか、今までに味わった事がな……い……」
調子に乗って語っている途中で気付く。
エメリアは笑顔を張り付かせているが纏っている空気が変わっていったことを。
「そうですか、それは良かったです。
私は先に部屋で休ませていただきますね」
そう言って背を向けて自室へと歩みを進める。
「あ、あの、エメリア?」
「そうそう、今日は私の夢に入ってこないでくださいね」
背を向けたままピシャリと拒絶する言葉を吐く。
その姿にクラリッサは幽霊にも関わらず、地面に両手をついて項垂れるのであった。