憑依
「あら……意外と早かったのね」
駆けつけた仲間達を見ながらクレアが言う。
「お、お姉ちゃん?」
そんなクレアの姿に疑問を持ったシゾンが確かめるように言葉を絞り出す。
だが、その答えは別の人物によって齎される事になった。
「姫様、救援遅くなり誠に申し訳ありません」
クレアの前で膝をついて傅くエメリア。
「これは私が蒔いた種だから構わないわ」
「しかし……」
尚も謝罪を続けようとするエメリア。
そんな彼女の姿を一目見た時かは驚愕している人物がいた。
「まさか……そんな……」
膝をつき、片手を地面について倒れまいとするマタン。
彼女はエメリアの姿を見て驚きのあまり言葉も出なくなっていた。
500年前に出会い彼女にエナジードレインの術を授けた人物……その人物にそっくりなのだ。
しかし、エルフでもない人間が500年もの時間生きながらえるなど……いや、例えエルフであろうと500年もあれば見た目は変わる事だろう。
だが、目の前の恩人は何一つ変わらず、マタンの記憶する姿と瓜二つであった。
そんなマタンの視線に気付いたのか、エメリアは彼女の方へと近付く。
「こ、こんな所でお会いできるなんて……」
500年間、自分の野望の支えとなって焦がれた思いが再燃する。
だが、そんなマダンをエメリアは冷たく見下ろしていた。
「勘違いしてもらっては困るが、貴女と出会ったのは私ではない」
「え……」
「つまりは……こう言う事だ」
エメリアがそう言うと同時にクレアの身体が脱力して地面に倒れ込む。
「お姉ちゃん!?」
シゾンが慌てて近寄り、地面に倒れ込む前にダイビングキャッチする事に成功した。
それと同時にエメリアが纏った雰囲気が一変し、柔らかくも怪しい気配を漂わせ始めた。
「貴女が会ったのは私……クラリッサの方よ。
そして、さっきまで貴女が戦っていた巫女様の身体を操っていたのも私。
ここまで言えば私の正体が分かるでしょう?」
エメリアに乗り移ったクラリッサは優雅にお辞儀をしながらマタンへと話しかける。
その所作は、シゾン達がかつて聞かされた通りに一流の貴族の立ち振る舞いであった。
「貴女は……クラリッサ様は既に死んでいて霊と呼ばれる存在という事ですか?」
「そう……ゴースト、リッチ、レイス……様々な呼び名があってその通りの種族になった事もあるわ。
今はしがない冒険者ギルドの見えないマスターって呼ばれているけどね」
「そんな……」
「正直、そんなことはどうでもいいの。
私がここに来た理由はただ一つ。
自分がやらかしてしまった事の後始末をしに来ただけ。
だから……この里、一回滅んでもらうわね」