枯渇
(なんじゃか大変なことになっておるのう)
白熱するマタンとクレアの戦い……それを俯瞰するような位置から眺めていたクレアは他人事のように考えていた。
いや、事実として他人事であったのだろう。
何故なら今のクレアの身体を動かしているのは彼女ではないからだ。
現状、自分の身体を好き放題に動かされている状態なのだが、クレアに戸惑いは無い。
それどころか……
(ほう、そこでそういう風に動かすのじゃな)
自分よりも遥かに上手く身体を使うその人物の動きを見ることに必死であった。
今まではベテラン冒険者としての経験を活かしてた……だが、それはあくまで人間としての戦い方であったのだ。
しかし、いま身体を使っている人物はハイエルフの力の使い方も知っていたのだろう。
その戦い方はクレア以上に洗練されており、強かった。
今も眼下ではマタンの膨大な魔力から放たれたレーザーを受け止め吸収していた。
(術式はあのもの独自のようじゃが、応用すれば使えそうじゃな)
その人物が負けるなどと言うことは微塵も疑わずに戦いの行く末を見守るクレア。
ここに至っては珍しく傍観を決め込むようであった。
一方で今も戦いを繰り広げているマタンとクレアの決着が近づいていた。
「く……ううう!!」
マタンは必死に魔力の制御に努めてレーザーを放ち続ける。
だが、その力は次第に弱まっていきレーザーはどんどんと細くなっていった。
幾ら神木の周りならば魔力が回復するとは言え瞬時に全回復するわけでは無い。
やがてマタンの身体から全ての魔力が失われていく。
「くっ……だが、まだお前から力を吸収すれば!!」
「本当に周りが見えていないのね。
やれるものならやってみなさい」
「その余裕も……何故、何も発動しない!?」
再びエナジードレインを発動しようとしたマタンであったが、先程と違い何も起こらない。
「この部屋にある術を強化する仕掛け……それはさっき貴女の攻撃を弾いた時に壊させてもらったわ」
クレアの言葉に慌ててマタンが辺りを見回す。
彼女の言う通りに、部屋の中にある術式が刻まれた柱が幾つも折れたり削れたりしていた。
「そ、それでも術自体は発動するはず……なのに何故!?」
何度発動させようとしても術の効果は現れない。
「そこが一番の間違いね。
ここに来たのは私だけじゃ無い……そして、貴女の狙いは最初っから分かっていた」
「ま、まさか……」
クレアの言葉にある可能性を思い当たるマタン。
「お姉ちゃん、大丈夫!?」
そんな時にシゾンを始めとした、隔離した筈の者たちがワラワラと祭壇に飛び込んできた。