エナジードレイン
マタンが幼き頃、500年を超えるほど昔にその人間に出会った。
緑色の長い髪を持つ人間の女性。
彼女はエルフの結界を物ともせず……いや、全く気が付かずに中に侵入してきたのだ。
「し、侵入者……」
その人間に一番最初に気付いたマタンは直ぐに里のエルフ達を呼ぼうとした。
「あら、それは困りますわね」
女性がそう言った瞬間にマタンの身体から何かが吸い取られる感覚がしてガクンと膝から崩れ落ちる。
「わたくしはただ道に迷ってしまっただけなの。
道を教えてくださればエナジーは返してあげるしお礼もするからどうかしら?」
見上げると上品に微笑む女性の顔が見える。
だが、マタンにはその人間がとてつもなく大きな化け物に見えた。
恐怖と好奇心からコクコクと頷くと自分の身体に力が戻るのを感じた。
その後、里の隅にある物置に人間を案内し、暫し交流をした。
人間は決して名乗ろうとしなかったのでマタンも詮索はしなかった。
ただ、彼女に道を教え、食料を与え、暫しの間お喋りをする……それだけの関係だったのだ。
数日が経って彼女は出発するといった。
お礼にと置いていった紙には彼女が使ったエナジードレインの術式が記されていた。
それは個人で扱うには不可能な程に大規模な呪文であり、その装置を作るには大きな建物を建築しなければいけない程。
そう……現在の里にある神殿くらいの大きさが。
この術式を手に入れた時にマタンは里長になる事を決意する。
エナジードレインを使って産まれてくる巫女から力を奪い、自身が巫女になるという野望を叶える為に。
そうして今、正にその夢が叶おうとしているのであった。
「これが……巫女様の、ハイエルフの力。
何と素晴らしい、これで私の野望も……」
自身が手に入れた力の大きさに思わず笑みが溢れる。
「後の事は全て私に任せて巫女様はゆっくりとお休みください」
マタンが手から魔力の塊を生成してクレアへと解き放つ。
最早動くことすら出来ないクレアにその一撃が当たる……そう思った瞬間にクレアの身体が宙に浮かぶ。
「まだそんな力が!?」
驚くマタンであったが、クレアはいまだに意識を失っているらしく脱力している。
にも関わらず宙に浮いている姿はまるで糸で操られたマリオネットのようであった。
「ならばこれなら!!」
今度は連続して魔力の弾を放っていくマタン。
しかし、クレアの身体は力が抜けたまま、上下左右と自由自在に移動してその攻撃を回避していく。
そしてクレアはある一点を目指して移動し、その場所に辿り着いた所でマタンの攻撃がピタリと止んだ。
「卑怯な!!」
マタンが悔しげにそう叫ぶ。
その視線の先には宙に浮かぶクレア、その後ろには輝きを放つ神木の姿があったのだった。