イズとイズモ
テーブルの上が全て片付く程に綺麗に食べ終えた後、2人でキッチンに皿を運んでからエリーが洗い始める。
リビングのソファーにちょこんと座ったイズは、膝にナハトを乗せてその背中を撫で始めた。
「主人は非常に優れたファイターと思われるが、この学校でもさぞかし優秀な成績を残しているのであろうな」
イズがこの学校に入学していたという話を思い出したナハトがそのような話題を振ってきた。
しかし、その問いの答えにイズは首を振って答えた。
「いえ……私は中間よりも下くらいの卒業も危ぶまれる程度の成績でしたよ。
何なら卒業はしていませんしね」
「何と……ならば現在も在学中であるのか?
しかし、その実力ならば卒業など容易かろうに」
「その辺り難しいんですよね。
入学したのは僕あって私じゃないというか。
この学校に入学したのはイズではなく、イズモ・アラタという男だったんですよ」
遠い目をして語るイズ……その目にどんな感情が隠されているのかナハトには察する事は出来なかった。
「主人とイズモという人物は同一人物ではないのか?」
「どうなんでしょうね……イズモは中性的な見た目で、身長も160程しかないチビでした。
それでも周りからは男だと分かる容姿をしていましたから。
それに私の今の適正はファイターですが、イズモの適正はレンジャーでした。
似てはいるんですけど、何もかもが違うんですよね」
「あら……イズちゃんがその話をするなんて珍しいわね」
そこへ洗い物を終えたエリーもやってきてイズの隣へと腰掛けた。
「ナハトは私の従魔になりましたからね。
彼になら昔話ぐらいしてもいいでしょう」
「それなら良いけど。
でも、懐かしいわね。
イズちゃんとの初めての出会い」
「あの頃から先生はずっとイズちゃんって呼んでましたよね。
今でこそ当たり前に受け入れてますけど、当時は嫌だったんですよ」
「しょうがないじゃない。
だってイズちゃんって言いたくなるくらいに可愛い容姿をしていたんだから」
また甘い雰囲気を出し始めた2人であるが、その会話を聞いていたナハトが首を傾げた。
「当時の主人は中性的ではあるが、男と分かる容姿をしていたのであろう。
そんなに可愛いと言えるものであったのであろうか?」
「それはですね……先生と出会った時が私が今の容姿になった時だからです」
そう言ってイズが語り出した話。
それは女神の祝福を呪いと呼ばれる代物に変えた男と、その呪いを中途半端に受けて半端な存在になってしまった男の物語であった。