引き抜く
「ほほう、素直に明け渡す気になったかね」
カリー屋の店主、ナイラはクレア達に全てを任す決断をした。
善は急げと町長の元に行く事になったのだが、クレアとシゾン、ナグモとイズが何かあった時の護衛として同行する事にしたのだった。
町長は予想通りという、正に私服を肥やした小悪党という醜悪な見た目の人物であった。
「ええ、これが店の権利書とレシピです」
「ふふふ、ならばこれはありがたく頂戴しておこう。
後は……」
町長が目線を送ると、部屋にいた何人かが出入り口を塞ぐように移動する。
「これは何のつもりだ?
権利書を渡したなら後は帰るだけでいいだろ?」
「ぐふふ、折角の金の成る木を逃すわけはないだろう?
ナイラよ、大人しく私に雇われれば痛い目を見ずに済むぞ。
それにあの店で料理を作る事も認めようではないか。
最低限暮らしていける程度の給料も払ってやるぞ」
「やれやれ、ここまで馬鹿な話を真顔でするとは困ったものじゃな。
まともに聞いておられぬわ」
「うむ、商売人として聞いてて呆れるしかないわい」
町長の余りの言い草にクレアとナグモが前に出る。
「付き添いは黙って……いや、待て。
そこのジジイ以外は従業員として雇ってやっても良いぞ。
特にそこの黒髪の少女よ、お主は私が目をかけてやっても……」
調子の乗って言葉を綴ろうとした町長を遮るように室内に破壊音が鳴り響く。
「ワシの孫に色目を使うとは許さぬわ!」
その音は町長の前に置かれたテーブルをナグモが粉々に叩き割った音であった。
「な、お、お前ら、こいつらに痛い目を見せてやれ!」
狼狽えた町長が男達に一斉に指示を出す。
その言葉を受けて一斉に動き出す男達。
「イズちゃん、そっち任せていい?」
「ええ、ではそちらはシゾンさんに」
「ナグモ殿、気持ちは分かるが町長は傷付けぬようにのう」
「分かっておるさ」
町長側が仕掛けてきたのでクレア達も応戦する……が、そもそもがイズどころか、ナグモ1人でもこの場を圧倒出来るのだ。
そこにクレアやシゾンまで加わった状態で負ける理由など一つもないと言えよう。
1分も掛からずに部屋にいた男達はピクピクと痙攣して床に這いつくばっていた。
「こういう時って麻痺の刻印入り武器って便利だね」
「ええ、私もフルパワーで殴れるので安心です」
周りにいる男達を片付けたシゾンとイズも合流して4人で町長を囲う。
「ひ、ひいいい!
ワシに手を出せば訴え出てやるからな」
「お主の方から仕掛けてきたんじゃろうに……まぁ、良い。
ナイラはお主の縛りから全て解放された筈じゃ。
今後二度とこの男に関わるでないぞ」
「ふ、ふん!
言われんでも店の権利とレシピさえ頂けば用は無いわ!」
「言質は取ったからのう。
こんな所に長居するものでも無いじゃろうからお暇するとしようかのう」
クレアの一言でゾロゾロと引き返していく一向。
「ふん……まあ、あの店とレシピさえ手に入れば後はこちらのものだ。
くふふ、どれだけの利益を生み出してくれる事やら」
町長は店の権利書とレシピを眺めながら、これから生み出してくれるであろう莫大な利益にほくそ笑む……それが取らぬ狸の皮算用だとも知らずに。