移店計画
「姐さん、本気でっか!?」
「この村八分状態の中ではどの道商売をしていくのは不可能であろう。
それならば建物もレシピもくれてやって違う場所でやり直したほうが建設的というものじゃ。
そうじゃのう……学園のある街などに移してはどうじゃ?
あの街の人口はここよりも遙かに多く、外部から訪れる者も多い。
この味ならすぐに今以上の売り上げを出せると思うんじゃが」
クレアが思いついた事を話す……すると、メイド2人とオヴァーニ以外の4人が何かに気付いたように喉を鳴らした。
「それって……実現したらいつでもカリーが食べられるって事?」
「先生にも食べさせてあげる事が出来ますね」
「品物の輸送も学園街の方が楽になりそうだな」
「姐さん……なんちゅう、なんちゅうアイデアを出してしまうんでっか!!」
学園に所属する4人は喜びの声を上げるのだが、ここで控えめながら手を挙げる人物、オヴァーニがいた。
「あ、あの……私は人間の社会のことは詳しくないので的外れかもしれませんが、レシピまで渡してしまうのは良くないんじゃないでしょうか?」
「なーに、レシピを渡したところでここの料理を作るのは不可能よ。
何せここの料理はワシの商会が卸しておる多数の香辛料を使わなければ作れぬからな。
阿良田商会はこの町から完全に撤退するつもりだ。
余所者を村八分にして追い出すような町に将来性などないわ」
「さて、後は店主の返答次第なのじゃが……どうじゃろうが?
お主の腕ならば初期費用などあっという間に回収してしまうであろうから、支援ならば我がアンデルスト家が受けもとう。
もし、またこのような事が起こるかもと心配であるならば先ずはアンデルスト家が店を作り、固定給と歩合という形で雇うと言った形でも良い。
将来、自己資金が貯まってから買い取って独立という形でも良いぞ」
クレアの言葉に店主は驚いて目を見開く……が、すぐに迷うように俯いてしまった。
ありがたい話なのは分かるのだが、この町での経験からすぐに決断が出来ないでいたのだ。
だが、しばらくしてから上げた顔は何かを決意した表情へと変わっていた。
「皆さんは何故初めて会った私にこのように良くしてくれるのですか?」
「それは簡単で単純な事じゃよ。
お主の料理がワシらの心を震えさせるくらいに美味かった……ただ、それだけじゃ」
クレアがそう言うと他のメンバーも同じように頷く。
「……分かりました。
皆さんのことを信じてこの話、ありがたくお受けしたいと思います」