黄金の誉れ亭
馬車は街道を順調に進んでいく。
途中で休憩し、御者をナグモからカプスに変えたりもしたのだが、特に問題は無かった。
「そうですか。
やはり回転を意識した方が……」
「いや、アンタの場合は元の力が半端ないから踏み込みを……」
最初の方こそ緊張していたカプスであるが、同じ大物の武器を振るう物同士、戦い方についての話が盛り上がっていたようである。
「すまぬのう、折角の休暇にこのような事に付き合わせてしもうて」
「何を言っておるんだ。
孫と楽しい旅行が出来た上にまだ行ったことの無かったエルフの里に行けるんだからな。
こちらの方こそお礼を言いたいくらいよ!」
クレアの謝罪にナグモは豪快に笑って答える。
こうして何も問題なく馬車は進んでいき、本日宿泊予定の街であるチューフの町へと到着した。
町に入る前にエルフである事がバレるとややこしくなる為にフード付きのマントを用意するクレアとオヴァーニ。
だが、そこにキンハーが待ったをかける。
「わいがいる間はそんなん必要あらへんで」
そう言って自分も含めて3人にかけたのは偽装魔法であった。
この魔法により3人の耳は人間種族と変わらない大きさに変貌していった。
「人間の耳に見えるだけで実際には耳はあるさかい、触られたらバレるから気をつけるんやで」
こうして町の中に入ると最も大きい宿を手配し、馬車を預けて各々の部屋に荷物を置く。
部屋割りはシゾンとクレア、カプスとイリス、ナグモとイズ、キンハーとオヴァーニの4組である。
「さて、夕食にしたいのじゃが宿で取るかの?」
クレアの提案に皆が頷くのだが2人だけは首を振った。
「いや、折角チューフの町に来たのだからな」
「やっぱあそこの店に行っとかんとあかんやろ」
ナグモのキンハーが同時に声を上げてお互いに顔を見合わせる。
「おっと、お主もあそこのファンか?」
「そういうナグモはんもでっか?」
他の人をそっちのけで盛り上がる2人。
この2人は旅慣れているおかげで各地にある美味しい名店というのをほぼ完璧に把握しているらしい。
「お主達が意見を合わせるとは余程の店であろうな。
一体どういう名前なんじゃ?」
「まぁまぁ、ついてきたら分かりますさかい。
ナグモはんも場所はきっちり覚えてまっか?」
「うむ、問題ないぞ」
「それなら2人で先頭歩いていきまひょか」
こうして8人はゾロゾロと列を成して歩いていく。
こうして辿り着いた店には黄金の誉れ亭という食堂であった。
入る前から美味しそうな香辛料の匂いが漂ってきている。
「ほないきまひょか。
おっちゃん8人頼むで」