旅の始まり
「いや〜まさかこないな大人数で里帰りすることになるとは思いまへんでしたわ」
馬車の荷台の中でキンハーが陽気な声を上げる。
馬車の中にはクレア、シゾンの姉妹。
カプスとイリスのメイド改め冒険者コンビ。
キンハーとオヴァーニのエルフ兄妹の6人が座っていた。
御者を務めるのはナグモで、その隣にイズが座っている形となる。
当初はカプスとイリスが交代で御者を務める予定だったのだが、旅慣れたナグモが御者をやりたがったので任せたのであった。
「お爺様とこうして旅に出るのは夢でしたからね。
行商ではありませんが嬉しく思っていますよ」
「それはワシもじゃよ。
ずっと望んでいた事が叶って本当に嬉しいわい」
イズはナグモとのんびり話しており、ナグモも上機嫌でそれに応えていた。
「………………はぁ」
そんなイズの姿を呆けたような顔で見ているのはカプスである。
「姐さん、気持ちはお察しします。
この旅の中でケリをつけましょうや」
「……いや、アタイ達の仕事はお嬢様方の護衛だ。
こんな気持ちは一旦閉まっておいて真面目にやらないとね」
「これだけの面子がいるんだからそこまで気を張らなくても大丈夫でしょ。
カプス姐さんが選ばれたのだって、お姉ちゃんなりの気遣いだと思うよ」
「うむうむ、仕事熱心なのも良いが折角の旅なのじゃから思う存分に交流を深めると良いじゃろう。
もちろん、お主を選んだのは実力を信じてというのも間違いないからのう」
「あ、ありがとうございます!」
御者台ではイズとナグモが談笑し、荷台でもアンデルスト家の4人が会話を弾ませる。
そんな中でキンハーとオヴァーニの間には若干の気まずさが漂ってきていた。
そんな空気感に最初に音を上げたのは勿論キンハーの方である。
彼は懐から、クレアの物と違う通常使いの扇子を取り出したて自分を扇ぎ始めた。
「ほんまこの空気感勘弁してや〜久しぶりの再会で空気が重くなるのは分かるけど何か喋ろうや」
「そ、そうですね!
あ、兄上が手に持っている物は一体何なんでしょうか?」
話しかけられたオヴァーニは慌てつつもキンハーの取り出した扇子が気になったらしい。
「ああ、これは扇子っていうてな。
ナグモはんやイズちゃんの出身で作られている道具やね。
普段はこうして畳んで収納して、こう、パッと開いて扇ぐのに使うんや。
ほれ、割と涼しいやろ」
「あ、本当ですね」
まだ、ぎこちなさは残るものの少しずつお互いに歩み寄っている姿を、荷台の4人は微笑ましく見ている。
こうして、旅の始まりはとても和やかにスタートしていったのであった。