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くにつほし九花烈伝〈レトロモダン活劇 第二幕〉  作者: 真野魚尾
第三章 暁月夜、仰ぐ東天に星宿の瞬くこと

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第38話 安らぎの面影

 門の内側には(みお)(けん)()、ラリッサ、ジャンルカ、そして(ひゃっ)(けい)がいた。


 一方でカミーユは、イグナーツととともに遺跡への進入を(はば)まれていた。

 境界を(へだ)てる膜が双方を判別する条件には見当がついている。


「来い、シルフィード!」


 カミーユは人差し指と小指を立てた召喚の祭印(サイン)を掲げる。

 呼応して現れるのは、緑風の乙女。


「お久しゅうございます、皆様。早速で恐縮ですが……」


 シルフィードが再会の挨拶(あいさつ)を送るも束の間、


「おう、行くぞ――〈精霊鎧装(スピリチュアライズ)〉っ!!」


 召喚士と精霊の交感。心身の同調を最大限に高めることで、鎧と化したシルフィードを、カミーユはその身に(まと)う。

 長く伸びた髪と背丈に優越感を覚えながら、カミーユは堂々と門の下をくぐり抜ける。


「ほら、通れた」


 カミーユは、(けん)()の胸に拳を突きつけ、言い放った。

 案の定、間の抜けた問いかけが返ってくる。


「え? 何? どうやったの?」

「答えは単純。この世界(トゥーラモンド)と、もう一つ別の世界に由来する因子を持った人間だけが、門を通れる仕掛けになってる」


 言うまでもなく、今のカミーユは、精霊界を起源に持つシルフィードとの二重体である。

 他の面々も同じだ。(けん)()とラリッサ――マレビトはユードナシアの、(みお)悪魔(カーヴェ)が有する魔界の因子を身に宿している。


 納得いっていないのはジャンルカであった。


「オレと(ひゃっ)(けい)は? どうして入れたんだ?」

「知らん」

「んあっ!? そこは何かねぇのかよ!?」

「いいじゃん。とりあえずは通れたんだし――ってわけで」カミーユは門の外を振り返る。「おじさん、留守番お願いね」


 その申し出を、イグナーツは()(しょう)()(しょう)受け入れる。


「仕方ない。『扉』が顕現(けんげん)すれば、凶暴化した魔物が集まって来るかもしれん。俺はここで退路を確保しておこう」

「助かるぅ」

「カミーユ、監督権限をお前さんに()(じょう)する。とくに得体の知れない百慶(そいつ)、気をつけて見張っといてくれ」

「アイサー!」


 カミーユの返事にうなずいた後、イグナーツは旧友にも言葉をかけた。


「それから……ジャンルカ、無理をするなよ」

「はぁ? し、してねーよ」

「ならいいんだがな。帰ったら二人で酒でも()み交わそうぜ」

「……おう」




 門前にイグナーツを残し、カミーユたちは遺跡を奥へと進んで行く。

 二点間の転移とは違い、門の内外は空間的に(つな)がっている。折り畳まれた内部が展開される仕組みらしい。


 壁面自体が放つ微光のおかげで、広さのほどは難なく把握できた。六人で横並びになっても通行には支障がない。天井の高さも縦に三、四人分といったところだ。


「カミーユ、鎧装のままで疲れたりしない?」


 (けん)()は気遣ってくれるが、要らぬ心配だ。


「あー、前に使ったのは出力重視の『直列同調(シリーズ)』だから。今やってるのは持続時間重視の『並列同調(パラレル)』。戦闘力はそこそこだけど、一日ぐらいは()つんだわ」


 魔術ギルドにいる間、カミーユはセルジュから〈精霊鎧装(スピリチュアライズ)〉のコツを教わっていた。その点は抜かりない。


「へー、カミーユもいろいろ頑張ってるんだね。頼りにしてるから」


 以前と変わらぬ調子で、(みお)が明るく(ねぎら)ってくれる。

 態度とは裏腹に、変わり果てた髪と瞳の色――悪魔に霊体を侵食され、内心不安で仕方がないだろうに、周りへの気配りを忘れてはいない。


 優しくて、心強い、姉のような存在だ。


「ふふん。任しといてよ、ミオ姉」


 リコルヌ族の鋭い五感と、精霊使いとしての優れた霊感。『扉』を開くのに適した場所を探すため、自分以上の適役はいないことを、カミーユは知っている。


(あたしがミオ姉を助けてあげるんだ)


 産毛がざわざわする感覚。きっとこの通路の先に、その場所はある。

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