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くにつほし九花烈伝〈レトロモダン活劇 第二幕〉  作者: 真野魚尾
第三章 暁月夜、仰ぐ東天に星宿の瞬くこと

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第35話 冗談じゃない!

 (みお)たちがカミーユとの再会に沸く()(なか)


「ところで、そこに隠れている御仁も紹介してくれないか?」


 思い出したようにイグナーツが顎をしゃくる。

 石造りの休憩所からふらりと出て来たのは、五十絡みの痩身(そうしん)の男だった。


「……フン。せっかくの同窓会に水を差すまいと思ったまで」

「あんたが光庵(こうあん)()(ひゃっ)(けい)か。お噂はかねがね」


 イグナーツは皮肉を皮肉で返す。


 幕府の高官は(ひゃっ)(けい)を表立って裁けなかった。冥遍(めいへん)()との(つな)がりが明るみになるのを恐れたのだ。烈士組合への身柄引き渡し、要するに厄介払いである。


「まぁ、異国の重罪人があちこち出入りするのは面白くはなかろうな」


 百慶の両手を拘束する()(かせ)には、彼を転移ゲートで連れて来るため新調された認証キーが埋め込まれている。


「悔しいが、この野郎が唯一の頼みの綱だからな。我らがリーダーのために一働きしてもらわねぇと」


 ジャンルカの意見に、皆も言葉や身振りで賛同した。


 (みお)の身に宿る悪魔を異界へ(かえ)すには、冥遍(めいへん)()の呪法を使い『扉』を強制的に出現させる必要がある。

 その条件に適した場所も、当然ながら限られていた。


 霊脈の歪みが起きやすい場所――先史民族ドヴェルグの遺跡だ。


 だが、遺跡の所在を探し出したり、探索許可を申請したりと悠長に動き回っている暇などあるはずもない。


 そこでジャンルカは、幼い自分が捨てられていた、このドルティオ山中の遺跡を再訪することを提案したのだ。


(オレはトラウマ克服、リーダーも救えて一挙両得……ここが男の見せ所だぜ)


 新月組(しんげつぐみ)の四人、(ひゃっ)(けい)、そしてイグナーツとカミーユ――計七名。揃って山へ分け入ろうとしていた。




「わかっているとは思うが、オークどもの縄張りは――」


 ジャンルカが注意を(うなが)すより早く、周囲の岩陰から猪面の巨鬼たちが飛び出して来る。オークの襲撃だ。


「動くなよ」


 俄然、イグナーツは垂直に跳躍し、目にも止まらぬ速さで大剣を数度振り回す。

 吹き荒れる剣圧の嵐はオークたちを、隠れていた岩もろとも両断し、全滅させていた。


「――さて、出発だ。こんな所でお前たちが消耗する必要はないからな」


 涼しい顔で着地するや、イグナーツは皆の返事を待たずに歩き出している。


(自分はこの程度、朝飯前ってか。相変わらず、いけ好かねぇ野郎だぜ)


 ジャンルカは「持っている奴」との差を実感する。そんなイグナーツよりも強い烈士が、この世には少なくともあと七人はいると思うと、気が遠くなりそうだった。


 自分たちの将たる(みお)とイグナーツとを見比べながら、ジャンルカはついつい対抗心を燃やしてしまう。


「あんま調子乗んなよ? うちのリーダーだって結構(つえ)ぇんだからな」

「ああ。所作を見ればわかる。お前と組んでいた頃の俺より断然上だ」


 イグナーツからの意外な高評価に、ジャンルカは頬が緩んだ。


「今はどうだ? もしお前と戦ったら……」

「俺の十戦十勝だろうな」

「んだよ、つまんねぇ」

「……ま、無傷で勝てるとまでは言わんさ」


 勿体ぶった言い方だが、元来の負けず嫌いが認めているのだ。それがジャンルカには誇らしかった。


(安心しろよ。オレたちが絶対『扉』の前まで送り届けてやるからな)


 そんなジャンルカの意気込みを知ってか知らずか、当の(みお)は娘同士の親善交流に大忙しだった。


「カミーユ、歩くの疲れない? 私が肩車したげよっか?」

「澪ちゃんずるい! うちが抱っこしちゃげよ思いよったのに!」

「降ろせぇええ! あたしは()輿(こし)じゃねぇええ!」


 小柄なカミーユを人形遊びよろしく、澪とラリッサは争奪戦を繰り広げている。


 普段の彼女らをよく知る仲間ならばともかく、部外者からすれば異常な光景だろう。


「やれ、騒がしくて敵わん。小僧、娘どもはいつもああなのか?」


 渋面で問いかける(ひゃっ)(けい)に対し、(けん)()はあっけらかんと答える。


「まぁ、大体は」

「フン……危険を目前に随分な余裕だな」

「ハハッ、ですよね?」

「褒めてはおらん。そういう貴様も大概だな。娘どもに感化されたか」


 「そうですね」と目を細めつつ、献慈はしみじみと言葉を続けた。


「澪姉の明るさとおおらかさが俺を救ってくれたのは本当ですから」

「そうか。貴様も元は頼るもののない『マレビト』だったな」

「……貴方にだって、心の支えになる人がいるんじゃないんですか?」


 少年が口にした瞬間、男の顔色が変わった。


「小僧ォ……知ったふうな口を利くなよ……ッ!」


 激昂する百慶と、献慈との間に、(みお)が素早く割って入る。


「ちょっと、おじさん。献慈のこと脅さないでほしいんですけど」

「誰がおじさんだ! (ひゃっ)(けい)と呼べ」

「それじゃあ……百慶……?」

「何だ、そのニヤついた顔は」


 百慶は気圧されでもしたかのように後ずさる。

 逆に澪は、不敵な微笑みを貼りつけて、じりじりと相手に詰め寄っていく。


「いやぁ……お師匠さまから(もら)った名前なんでしょ? 大事にしてるんだな、って思って」

「……改名するのが面倒だっただけだ」

「ふぅ~ん……」

「や、やめろッ! そんなキラキラした目で見るなッ! 幽慶(ゆうけい)とは貴様の考えているような関係じゃあないッ!!」


 ますますムキになる百慶と、それを軽くあしらう澪との構図は、(はた)()にはもはや喜劇とすら映っていた。


「説教ではなく冗談でやり込めるとは、大物の器だな」


 イグナーツは心底感心の様子だ。


(冗談じゃあねぇんだよなぁ……)


 言い返しそうになるジャンルカであったが、澪の名誉のため、この場は黙っておくことにした。

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