表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くにつほし九花烈伝〈レトロモダン活劇 第二幕〉  作者: 真野魚尾
第三章 暁月夜、仰ぐ東天に星宿の瞬くこと

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/60

第34話 友情

 オルカナ王国北部の都市・ドルタモにある宿酒場。店の名を〝ミルクと蜂蜜亭(ラッテ・エ・ミエーレ)〟という。


「俺はエスプレッソを。嬢ちゃんは?」

「それじゃ……ハチミツ入りカプチーノを」


 カミーユは少し迷うふりをしながら、この店の看板メニューを(おご)ってもらうことにする。


 同席の男は年の頃、四十手前といったところ。一月ほど前に知り合った、竜の角と尻尾を持つ竜人族(ドラコニアン)の戦士である。

 全世界にわずか百一人の「明星(みょうじょう)烈士」に名を連ねる実力者でもあった。


「緊張しなくてもいい。俺なんて、剣さえ抜かなきゃどこにでもいるただのオジサンだ」


 どこにでもはいない、とカミーユは思う。

 プラチナブロンドの短髪、涼しげなターコイズブルーの瞳。鼻筋の通った端正な顔立ちながら、どこか愛嬌のあるこの「美中年」をどうして意識せずにいられよう。


 以前のカミーユであれば、趣味と実益を兼ねたコネ作りに、あざとくアプローチをかけていたかもしれない。


(年上の男……子ども扱い……うぅっ、生傷が痛む……っ!)


 昨年イムガイでの失恋を引きずるカミーユが、積極性を取り戻すにはまだ早かった。

 今はただ、上級烈士と仕事を共にできる名誉だけで満足しよう、と自分に言い聞かせる。


「いえ、オジサマは充分に素敵な男性だと思いますよ」

「そりゃどうも。しかし、何だか元気がないな。昔の仲間に会えるんじゃなかったのか?」

「まぁ、そうですけど……」


 ()(はず)どおりなら、そろそろ迎えが来る時間だ。

 二人が注文の品を飲み終えようとする頃、男が独り()ちながら入店して来た。


「さて、六番テーブル……おぁ? 並び変わってんじゃねーか、ったく……」


 眼鏡をかけた赤毛の男性。耳の先が尖っているので、魔人族だ。

 六番――つまりカミーユたちのテーブルへ、つかつかと歩み寄って来るや、驚きの声を上げた。


「すんませーん、ご案内……って、イグナーツか!?」

「待ってたぞ、ジャンルカ。久しぶりだな」


 答えたのは無論、竜人の戦士カトナ・イグナーツである。

 たった今やって来た、新月組(しんげつぐみ)のジャンルカ・グァルニエリとは旧知の仲――カミーユは事前にそう聞いていた。


「監視に付く明星烈士ってのがお前だったとは……出世したじゃねぇか」

「お前こそ、よく腐らずに烈士を続けていてくれたな」


 イグナーツは椅子から立ち上がると、いきなりジャンルカのシャツを脱がせにかかる。


(むぅ……っ!!)


 カミーユは刮目(かつもく)して男たちの行動を見守った。


「な、何しやがる!?」

「……やっぱり、まだ残ってやがるか」


 ジャンルカの肩には、剣で刺したような古傷が刻まれていた。

 次いで、イグナーツは自分も上着を脱いで見せる。ジャンルカと同じ場所に、こちらも古い刺し傷があった。


「イグナーツ、お前それ……」

「自分でつけた。戒めのためにな」




 二十年近く前、イグナーツとジャンルカ、そして今はイムガイで烈士組合の受付をしている那海(ナミ)という女性は、三人で烈士チームを組んでいた。


 とある戦いの折、過失から那海を傷付けてしまったジャンルカの肩を、イグナーツは怒りに任せて剣で突いてしまう。それが元で、チームは程なく解散してしまった。


 だがその後、イグナーツは考え直す。ジャンルカは決して己のために蛮勇を振るったのではない。結果として失敗したにせよ、那海を守るために行動したのだ。




「未熟だったのはお前じゃない。この俺のほうだったんだ」


 (うつむ)くイグナーツの顔を、ジャンルカが両手で挟んで起こす。


「だからって、自分で傷までつけるかぁ? 重てーよ」

「できればお前につけてほしかったんだがな」

「やめてくれ。男と突き合う趣味はねーよ」


 照れくさそうに互いの肩を小突き合う男たち。

 その光景を眺めながら、カミーユはかつての仲間へと思いを馳せるのだった。


(何だか、ミオ姉が好きそうなシチュエーションだなぁ……)




   *




 先導するジャンルカの後ろを、カミーユはイグナーツとともに追って歩く。


 ドルタモの街から続く坂道を進むと、ドルティオ山の修道院へ続く参道に(つな)がる。

 宿酒場を出てから正味十五分ほどで、石造りの休憩所前に到着した。


 待っていたのは三人。最初に、袴姿の女性剣士が進み出る。綺麗に伸びた黒髪の、左半分が真っ白に染まっていた。


「ご足労ありがとうございます。新月組(しんげつぐみ)筆頭・(おお)曽根(そね)(みお)です」

「カトナ・イグナーツだ。烈士組合の要請で監督させてもらう」


 双方の顔合わせが済んだ途端、直前までの緊張感はどこかへ霧散する。


「うわぁ~! ぶち可愛い~!」

「――ウボァ!?」


 突進して来たピンク髪のギャルに、カミーユはぬいぐるみ然と抱きしめられていた。


「カミーユちゃん、聞いとったけど、ほんっまに可愛い! こまい! あとええ匂いする!」

「匂いはヤメロォ!」


 喜びも(あら)わにまくし立てるギャルの胸の中で、カミーユはジタバタともがいていた。

 そんなとき、懐かしい少年の声がした。


「ラリッサ、そのへんにしてあげなよ」

「わかった。(けん)()くんに譲っちゃる」


 そう言って迷惑ギャル、もといラリッサは抱擁からカミーユを解放する。

 立て襟シャツに吊りズボン、トンビコートを羽織った少年が、優しい眼差しでカミーユを見つめていた。


「カミーユ、久しぶり。元気そうで良かったよ」

「……お、おぅ。ケンジこそ」


 手紙のやり取りこそあったものの、七ヵ月ぶりの再会。何だかぎこちない。


(何緊張してんだ!? コイツはあたしの舎弟だろ!? 散々イジったり、(ののし)ったりしてたじゃねーかよ!)


 微妙な空気を察知したのか、ジャンルカが横から発言する。


「何だぁ? この感じ。やっぱカミーユちゃんって、献慈の元カノだったり……」

「……は?」


 (みお)が直ちに反応する。独占欲に歪んだ凶悪な視線は、ジャンルカを刺し貫かんばかりの鋭さであった。


「じ、冗談だよぉ! 気軽に殺気を浴びせんのはやめてくれぇ!」


 すくみ上がるジャンルカを、イグナーツが笑い飛ばす。


「ハハハッ! お前も若者たちと仲良くやれてるじゃねえか!」

「テメェ、他人(ひと)(ごと)だと思いやがって……!」


 またもや悪態をつき合う旧友たちを目にして、カミーユは心が澄み渡るような感覚を覚えた。


(ああ、そっか……この気持ちが――)


 (けん)()と出会って以来ずっと抱えていた、このくすぐったい感情の正体を、今になってようやく悟ったのだ。


「あたしとケンジは……友だちだよ」

★イグナーツ イメージ画像

https://kakuyomu.jp/users/mano_uwowo/news/16817330667592548950

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ