表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くにつほし九花烈伝〈レトロモダン活劇 第二幕〉  作者: 真野魚尾
幕間 弐

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/60

第27話 王子様は休業中

 四人で買い物に出かけよう。


 最初に提案したのは誰だったか。

 はっきりと憶えてはいないが、年頃の女子が四人集まれば、誰が言い出したとしてもおかしくはない。


 引っ込み思案な自分――()(ぶね)香夜世(かやせ)を除いては。


「可愛らしい髪飾りだね」


 (うる)()が褒めたのは、ラリッサのサイドテールを彩るシュシュであった。なるほど、桃色の髪に水色の布地がよく映えている。


「ありがとー。これなー、(みお)ちゃんに(もろ)うたんよ」

「誕生日だったし……作ってみた」


 澪はうつむき加減におちょぼ口で付け加える。出来に自信がないのか、単に照れているのか。

 香夜世が様子を(うかが)(かたわ)らで、潤葉はお構いなしに二人へ近寄っていく。


「へえ、すごいじゃないか。もっとよく見せてみて――」

「潤葉様っ、早く出発しますよっ」


 香夜世は慌てて潤葉の腕を引き寄せた。少し目を離すとすぐこの調子だ。


 潤葉は自分とは違って社交的である――良くも悪くも。とくに女性との距離感が近いのには、毎度やきもきさせられる。


「そう急がなくても……いや、カヤの言うとおりだな」


 近代建築の建ち並ぶグ・フォザラの新市街は人通りも多い。

 そこへ、一際(ひときわ)目を引く長身の美女が三人も現れればどうなるか。


 潤葉は、吊りズボンにジャケットの男装姿。艶めくショートヘアの片側から覗いた、鬼人の角も凛々しい。


 澪は、流行り柄のお(めし)行灯(あんどん)(ばかま)のいでたちである。結い上げた黒髪に()(くし)(かんざし)がお似合いだ。


 ラリッサは褐色の肌を大胆に露出した南国風のカジュアルコーディネートだ。厚底のグラディエーターサンダルは、自慢の長い脚をより一層際立たせている。


(皆さん、揃いも揃って目立ちすぎなんですよ……!)


 とっておきの銘仙(めいせん)と羽織で目一杯お洒落を決めて来た香夜世であったが、いざこの三人と並ぶと気後れしてしまう。


 そうでなくとも、これ以上人目を集めないうちに、一刻も早く目的地へ移動したかった。




 四人が向かった先は、先月開店したばかりの百貨店であった。


「……みんなこっち見てるね」


 (みお)香夜世(かやせ)に耳打ちしてくる。言われずともわかる。理由も察せられた。


「僕がいるせいだな。すまない」


 (うる)()谷津田(やつだ)財閥の令嬢として顔が知られている。店員からは敵情視察と疑われるのもやむを得ない。


「変装してみたらどうじゃろ?」


 ラリッサの発言に、(みお)が色めき立つ。


「いっそのこと可愛い格好してみるとか?」

「……っ!? それはいいですね!」


 脳裏に浮かぶ「王子様」の「女装姿」――香夜世は一も二もなく賛同した。潤葉包囲網の完成である。


「なっ……みんな急にどうしたんだっ!?」

「潤葉様……ご覚悟ください……!」




 一時間後――。


 フリフリのワンピースにリボン、そして金髪のウィッグを装着した(うる)()を取り囲む三人は、皆一様にホクホク顔であった。


「潤葉、すっごく可愛いよ?」

「ほんまじゃ。銀幕のスタアにも負けとらん思う」

「服装に合うアクセサリーも必要ですね。さ、行きますよ、潤葉様」

「今日の予定って、こんなだったっけ……?」


 一人戸惑う潤葉を連れて、香夜世(かやせ)たちは百貨店の売り場を渡り歩くのであった。




「仕上げのメイク決めに行こうかいね」


 ノリノリのラリッサを先頭に、四人で宝石店から出て来た時だった。


 何かを見つけたように、(うる)()が素早く柱の陰に身を隠す。

 案の定、そこには知り合いがいた。スレンダーな(すい)()と、グラマラスな褐色エルフの女性二人組である。


「あら、皆さん。ごきげんよう」


 先に声をかけてきたのは、烈士組合受付の那海(ナミ)だった。

 こちらが返事をするより早く、重力の魔女・エヴァンが続ける。


「こりゃ奇遇だこと。みんなでお洒落してショッピングかい?」

「そんなとこ。お二人もここでお買い物?」


 一時不在の潤葉に代わって(みお)が前に出る。


「アタシは妹分へのお土産を買いにね」


 エヴァンは元々大陸で活動していた烈士である。チームメイトが(おう)()で武術の修業中らしく、その間だけ自分も見識を広げにイムガイを訪れていたと聞く。


「もう帰っちゃうんだ……那海さんは付き添い?」

「ううん。この子はジャンルカのプレゼント選びだってさ」


 含み笑いするエヴァンの横で、那海はしきりに眼鏡を上下させていた。


「た、ただの昇級祝いだし! そんな深い意味はないから!」

「ふーん。ジャンパイとお幸せに~」

「もぉ……君たちはぁ……」


 ネコ耳を忙しく動かしながらもう二言三言弁解した後、那海はエヴァンとともにその場を去って行った。


 二人の姿が見えなくなったタイミングで、(うる)()が柱の陰から出て来る。


「もう行ったかな……?」

「そがぁにコソコソせんでもええじゃろ」

「だ、だってぇ、恥ずかしいし……」


 ワンピースの裾を掴んでもじもじする潤葉の仕草に、香夜世(かやせ)はかつてない情動が身体の内側から沸き上がるのを感じていた。


(くっ……! これはっ……い、一旦落ち着かなくては……っ!)


「そうよね。まだメイクが完成しとらんもんね。こうなったら口紅から香水までうちがばっちり決めちゃるけぇ、(はよ)う売り場行こうやー」


 急ぎ立つラリッサに、香夜世は待ったをかける。


「ま、待ってください。わたしはちょっとお手洗いに――」

「私も」


 言葉を割り込ませたのは、(みお)であった。


「後で追いつくから、二人とも先に行ってて」

(うる)()(女装)/香夜世(かやせ) イメージ画像

https://kakuyomu.jp/users/mano_uwowo/news/16817330669455512041

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ