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くにつほし九花烈伝〈レトロモダン活劇 第二幕〉  作者: 真野魚尾
第二章 宵闇を照らせ、地上の星たちよ

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第25話 禍宵(マガヨイ)に住まう者

 千五百年前、この世界トゥーラモンドに異界からの侵略者が現れ、〝救世の烈士たち〟との戦いを繰り広げた。


 今日『十三年戦争トレットノリガ・クリゲット』として知られる出来事である。


 強大な力を持つ異形の侵略者は、サルウィスムス教における『神』の敵対者になぞらえて悪魔(ディーモン)と呼称された。




 その悪魔が今、(けん)()(みお)の目の前にいる。


「Shimi-ry ynori? OSA...」


 目鼻らしきものが付いた頭部から、不可解な震動を発していた。

 害意の有無はこの際、問題ではない。


「とにかく、この子を異界に帰してやればいいのね」


 言い放つや、澪は刀の柄に手を掛ける。至極シンプルな解答だ。

 献慈も肩を並べ、異形の行く手に立ち塞がった途端――


「Quenteshe...Kimi'i shima!」


 黒光りする大蛇のような腕が力任せに石壁を突き崩す。威嚇というにはあまりにも剥き出しな怒気が轟々と渦巻いていた。


 さながら生きた災害だ。先手を取らせてはいけない。


「俺が引きつける――」


 献慈は治癒の光を(じょう)(まと)わせ、


「――〈黎明断(れいめいだん)〉!」


 悪魔めがけて打ち下ろす。(かり)()めの実体を維持する「闇」の本質は「収束」。それを「光」によって「拡散」させる。


「Aaa...!」

(効いている……通用する!)


 防御した敵の前腕が焼け焦げたような煙を上げた。


 その隙を突いて、澪が抜き打ちの一太刀。(みお)(つくし)天玲(てんれい)の蒼き刃が胴体を深々と斬り裂くも、分断までには至らない。


 すかさず献慈も追撃をかける。


「〈鹿(ろっ)()狼乱(ろうらん)〉!」


 澪と交互にそれぞれの技を繰り出し続けた。


 悪魔は傷を負うそばから自然回復を始めている。吸血鬼(ヴァンピール)をも上回る恐るべき再生力。爪と足刀による反撃も激しい。


 だからといって、後退は悪手だ。攻撃の手を休めてはならない。


(このまま一気に押し切らないと……)


 ――(おお)曽根(そね)(みお)。お前は『扉』に近づくべきではない。


 (ひゃっ)(けい)の言葉を今一度思い出す。異界の空気に触れた魔物たちが凶暴化したように、戦いが長引けば長引くほど澪に悪影響が及ぶ恐れがある。


 悪魔が身をすくませた。抵抗の気配――あり。だが押し通せばこちらの勝ちだ。


(ならば――押し通す!)


 渾身の一撃に入ろうとした刹那、(けん)()は察知してしまった。

 敵の殺気がこちらを向いていない。


「(しまった!)(みお)姉――っ……!!」


 側方へ回り込んだ献慈は次の瞬間、自分の背中が崩れかけの石壁に埋まっているのに気がついた。

 敵の蹴りを喰らって()ね飛ばされたことまでは憶えている。


(けん)()……!?」


 離れた場所で、澪が必死に敵の猛攻を(さば)いていた。一転して防戦一方だ。立ち回りにも動揺が隠しきれていない。


 俺に構わないでくれ――そう叫びたくても声が出ない。体を突き抜けた衝撃の余韻が凄まじい。まるで交通事故だ。


(冷静に……なれ。まずは生き延びるのを第一に考えろ――)


 失神寸前の気力を振り絞り、献慈は自身に治癒を施す。敵のターゲットは澪に絞られている。これはチャンスと見るべきだ。


「Kys'miw...! Tesi'en'somore!」

「新月流〈()(らくの)()〉」


 澪は敵の周囲を舞い巡り、撫で斬りで牽制を繰り返していた。悟られぬよう、視線が献慈の方を窺っているのがわかる。


 アイコンタクトだ。今ならば、応えられる。


(届け……〈颱嵐(たいらん)()〉!!)


 練り上げた内功を杖身に込め、螺旋を描く突風を撃ち出す。

 敵の片腕が()じ上げられ、(みお)の眼前へと大きな隙が(さら)された。


「新月流――奥義〈()(よう)()〉」


 それは一振りに五本の太刀筋を連ねる秘剣。必滅を(まぬか)れる(すべ)はない。

 余さず決まっていたのならば。


「Giiyaa...ah...!!」

「う……ッ」


 相討ち。半身を消し飛ばされた悪魔の逆腕が、澪の体を大きく(はじ)き飛ばす。

 敵の命脈はまだ途絶えていない。


(……俺が……やるしかない――!)


 だが、たどり着くには距離がありすぎる。

 せめて、あと一秒でも足止めできれば――


(けん)……()……」

「――献慈くん!」


 風を切って飛来したのは、手斧(マシャド)。着弾とともに敵の足元が氷漬けになる。

 ギリギリでつながれた数秒間に、献慈は己の全身全霊を注ぎ込んだ。


 燃え盛る極光を(まと)い、弾丸となって疾駆する。


「(これで決めてやる――)〈()天濁冽(てんだくれつ)()〉!!」


 大上段に振り被った杖は破邪の鉄槌と化し、悪魔の残された半身を一撃の下に打ち砕いた。


「OooSA...aa...」


 悲痛な声を残し、魔の気配がたちどころに掻き消えてゆく。


 脅威が去ったことを告げるように、献慈の中で〈仙功励起(エキサイター)〉の(たぎ)りが収まっていった。

 眼前に垂れた前髪は元の黒髪へと戻っていた。


「……そうだ! 澪姉は――」


 (けん)()は急いで恋人のもとへ走り寄る。


 (みお)はラリッサに抱き起こされていた。見たところ、左肩をひどくやられている。


「すぐに治すよ」


 治癒の光が澪の患部を覆った。


「うん…………ん……っ!」

「ごめん! 急ぎすぎた!?」

「……ううん、大丈夫」


 澪の傷は塞がり、肩も問題なく動かせているようだ。

 安堵した献慈は、改めてラリッサに感謝する。


「ありがとう。助かったよ」

「うちが一番乗りじゃっただけよ」


 言われて見渡せば、ジャンルカ以下、六宝牌(ろっぽうはい)の面々も揃い踏みであった。


「こっちも片付いたぜ。おつかれさん」


 皆、(けん)()のとどめの瞬間を目撃していたらしく、口々に()(たた)える声がどうにもくすぐったかった。




  *




 その後、皆が見守る中、風水師はすぐに『扉』の封印に取り掛かった。

 当初儀式は難航したものの、消耗の激しい(みお)たちが引き上げた直後から、空間の乱れは落ち着きを見せ始める。


 程なくして『扉』は完全に閉じられた。




 此度の騒動を引き起こした冥遍(めいへん)()信徒のほとんどは、船とともに湖の底へと沈んでしまった。

 首謀者である光庵(こうあん)()(ひゃっ)(けい)は幕府に連行され、詳しい取り調べを受けるだろう。




 作戦成功の立役者となった烈士チーム、とくに(じゅう)()(せい)新月組(しんげつぐみ)はさらなる名声を得て躍進することになる。


 春の嵐は過ぎ去り、束の間の平穏が訪れた。

★〈仙功励起(エキサイター)(けん)() イメージ画像

https://kakuyomu.jp/users/mano_uwowo/news/16818023213192342847

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