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くにつほし九花烈伝〈レトロモダン活劇 第二幕〉  作者: 真野魚尾
第二章 宵闇を照らせ、地上の星たちよ

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第23話 我が剣、見つけたり

 凶暴化した魔物の群れを退(しりぞ)け、一行は最奥部手前までたどり着く。


 術士の素養がない(うる)()には『扉』の有無までは察せられない。

 だが、曲がり角の向こうに待ち構えた、怖気立つような魔の気配を感じ取ることはできた。


「……僕一人で叩く。横槍が入らないよう周囲を警戒してほしい」


 反論はなかった。腰の刀を収めた潤葉は、香夜世(かやせ)幽慶(ゆうけい)が術で加護を施すのを待ち、背負った大太刀を抜き放つ。


 (あふ)れ出る闘志に誘われてか、敵はひたひたと歩み寄って来た。

 その全貌を目にした潤葉は、我知らずと口走る。


「悪魔――」


 頭部には角、背中には飛膜を生やした人型のそれは、黒蛇を思わせるぬらぬらとした光沢を帯びた、おぞましくも艶めかしい立ち姿をしていた。


 しかしその本質は、潤葉と同寸大に凝縮された暴威の渦にほかならない。


「Mimi'e shim'-she? KAWE-he...」


 奇怪な声音が訴えるものは敵意であろうか。それとも――


「KAWE-'i shimi-ry ensse!」


 〝それ〟は恐るべき速さで向かって来た。無造作に振るわれる長腕。反射的に構えた大太刀と鋭い爪がかち合う。


 掴まれてはまずい。瞬時の判断で側面へ回るも、悪魔(それ)は易々とこちらの動きに付いて来る。


「――許せ」


 (うる)()は――この一撃で決めるつもりで――大太刀を一閃させる。

 手応えは想像以上に重かった。肩口から腰まで走る傷を負いながら、相手は後退してゆく。


「KA...WE...」


 潤葉は理解してしまった。声ならぬ声は、怒りよりもむしろ不安に染まっている。


 例えば、たった今見知らぬ世界へと生まれ落ちた赤子。

 自己表現の手段が破壊しかない者の悲しみ。


「すぐに帰してやる」


 その哀れな迷い子を、あるべき世界へと送り帰す最も簡単な方法は、(いびつ)な肉体の檻から解放してやることだ。


 初太刀で負わせた傷はすでに塞がっていた。生半可なダメージでは回復されてしまう。

 無上の一太刀をもって滅ぼさなければならない。


 だが敵の猛攻は、潤葉が構えに入るのを(ことごと)(はば)む。反撃するも、隙を作り出せるほどの深手は負わせられない。


 縦横無尽に駆け回る両者の間で、絶えず空気が唸りを上げる。一進一退の膠着状態が続いていた。


「手を出すなよ」仲間たちへ、今一度釘を刺す。「僕を信じろ」


 刃を交えれば嫌でも伝わる。焦っているのはむこうも同じだ。

 

 不意に相手が大きく間合いを離してきた。逃げの姿勢とは裏腹に、濃密な殺気がこちらへと向いている。大技の前兆だ。


「伏せろ、みんな!」


 (うる)()は直感的に身を低く取る。後ろ脚を残し、床に胸が着かんばかりの前のめりで繰り出すは、妙刀技〈()(ざん)〉。限界まで伸ばした大太刀の切っ先が、敵の向こう(ずね)を斬り裂いた。


 仰向けに倒れた敵の頭部から、放出された破壊の波動が天井を撃ち抜く。落下する瓦礫とともに差し込む陽の光が威力の程を物語る。


 もし正面に撃たれていたら、ひとたまりもなかった。


 断ち斬ったばかりの脚は、早くも再生を完了しつつある。潤葉は素早く間合いを詰めるも、敵の二発目まで猶予はほぼないだろう。


 この一手で決められなければ、全滅は目の前だ。


(燃えるじゃあないか――)


 かつてない血の(たぎ)りが、(うる)()の全身全霊へと行き渡る。

 己は最早、剣の化身だ。

 絶対の自信が骨を、筋肉を、魂を突き動かしていた。


 我が剣、見つけたり。


 左前の居合腰、内功を込めた腰の(ひね)りで鞘を引く。

 右肩に担ぐ大太刀の斬撃を、片手抜刀の剣速に追いつかせる、非合理の理合。

 交差する二つの太刀筋が重なる一点に無比無双の貫通力を生み出す絶技の名は。


「〈(じゅう)()(りゅう)(せい)()〉」


 四つに分断された悪魔の肉体は、二度と復活することなく風に散っていった。


「KAaaa...WEeee...」


 物哀しい断末魔の響きだけを残して。

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