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くにつほし九花烈伝〈レトロモダン活劇 第二幕〉  作者: 真野魚尾
第二章 宵闇を照らせ、地上の星たちよ

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第18話 カチコミだよ!全員集合

 魔物の一掃された湖岸付近に、最終作戦の実行部隊が集結していた。敵船隊に直接乗り込み、首謀者である光庵(こうあん)()(ひゃっ)(けい)を捕らえるのが目的だ。


 主力となる没汀(ぼってい)()のメンバーが突入前の儀式を行っている。体や尻尾をくねらせ、独特の節回しを口ずさむ様子を、(けん)()が遠巻きに眺めていた。


「何歌ってるのかな。ラガマフィンみたいな……」

(じゅ)()のこと? ああして自己強化かけよるんよ」


 ラリッサは軽く説明する。(すい)()には呪法と拳法を組み合わせて戦う、(きょう)流という武術が伝えられているのだと。


「なるほど。俺がメタルで気合入れるのと同じか」

「違……ん、まー、そんな感じじゃ」


 献慈は「へびめた」が絡むとこだわりが強く面倒なので、ラリッサは生返事で肯定した。


 実のところ、雑談に興じる心の余裕はあまりなかった。

 もしかすると献慈は、そんなラリッサを気遣って声をかけてくれたのかもしれない。


(ありがとう。献慈くん)


 震える手で、ラリッサは自分の両頬をぴしゃりと打った。




各々(おのおの)方、いざ参らんッ!!」


 向こうで瑠仁(るじ)(ろう)の声が上がった。左翼側の部隊が湖へとなだれ込んでゆく。


「こんならァ、カチコミじゃあっ!!」


 ラリッサも右翼側の部隊を引き連れ、突撃をかける。


 両翼とも岸から最も近い敵船の下までやって来ると、没汀(ぼってい)()の三人ずつが土台となってラリッサと瑠仁郎を空中高くトスする。


 後方で幽慶(ゆうけい)大音(だいおん)(じょう)を発した。


一切無碍(いっさいむーげー)一心護汝(いっしんごーじょ)――(ユァ)ッ!!」


 分厚い障壁が展開、船から襲い来る矢の雨を防ぐ。その間にラリッサと瑠仁郎は身を翻し、敵船の甲板へと着地した。


()ねや、おどりゃあ!!」


 ラリッサの気迫に押され、邪教徒たちは右往左往する。幾人かの身の程知らずが襲いかかって来るので、蹴りと頭突きで強制下船してもらった。


 強力な魔物の生贄となるのは術士だけだ。自刃を防ぐため、当て身で失神させる。


 程なくして水虎たちが船縁を駆け上がり合流して来た。


「先行くけぇ、ついて来んさいや!」


 ラリッサは船から船へと飛び移りながら、同じように敵を制圧していく。邪魔な矢は斧で打ち落とす。


 没汀(ぼってい)()の猛者たちも(おく)れを取ることなく、立ちはだかる敵を投げ技や点穴で無力化していった。


 ラリッサを先頭に四名が続々と旗艦へ飛び移る。同時に左翼側からも瑠仁(るじ)(ろう)率いる部隊が飛び乗って来た。


 まさに背水となった敵軍の抵抗も虚しく、甲板は瞬く間に烈士たちの陣地へと塗り替えられた。


「全員揃ってござるな?」


 瑠仁郎の短筒(たんづつ)から撃ち上がる信号弾を合図に、今いる旗艦を除いた船隊が音を立てて沈んでゆく。手筈どおり、岸に残った「秘密兵器」が実行してくれたのだ。


 敵の追撃は完全に絶たれた。


「あとは……」

「残るはわたしだけか」


 いまだ余裕の笑みを貼り付けた(ひゃっ)(けい)が堂々と歩みを進めて来た。

 勝負は一瞬。瑠仁郎が電撃を放ち、動きを止める――


()(らい)――」

「ほぅあちゃあああァ――――ッ!!」


 耳を(つんざ)く怪鳥音を発したのは、百慶。


「――んごほォ……ッ!?」


 電光石火の飛び蹴りを見舞われた瑠仁郎は船を飛び出し、真っ逆さまに湖へと落下していった。


 宙返りを打って着地した百慶に、すかさず水虎たちが挟撃をかけるも、


「この野ろ……がはっ!」「うぐっ……!」


 一人は掌底、もう一人も頭突きを喰らい、船の外へと投げ出された。


 仲間をやられた没汀(ぼってい)()(くみ)(がしら)が、ラリッサたちを制して前へ出る。


「今の技は〈返応授扇(へんのうじゅせん)〉と〈奪翻(だっほん)()〉……この男、(ひょう)流の使い手だ」


 漂流は狂流から派生した流派だ。呪歌を捨て去った分、格闘術に特化している。


「いかにも。してその構え、貴殿も同門だな?」


 百慶の問いには答えず、組頭は疾風の速さで敵に肉薄、両掌を突き出す。こちらも漂流の技、〈(ちょく)吐打(とだ)(きょう)〉であった。


「だが精進が足りぬ」

「……ぐ……っ!?」


 組頭の攻撃は空を切り、あまつさえ後退を余儀なくされた。(ひと)重身(えみ)を取った百慶の貫手が人中を穿つ寸前の判断だった。

 鉄指をもって点穴を突く絶技〈()(とつ)暗兵(あんぺい)〉。恐るべき精度だ。


「わたしと遊んでいる暇はあるまい? 急がんと仲間が溺れ死ぬぞ。命は平等ではないからな」


 皮肉交じりに諭される屈辱を呑み込むように、組頭は目配せを送ってラリッサに場を託す。


 水虎たちが船を降り、一人残った派手娘(ギャル)を前に百慶は何を思うか。


「大した自信だな。名は何と言う」

新月組(しんげつぐみ)、ラリッサ・マシャド」

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