婚約者とデート
「あの……本当に良かったの?」
「なにが?」
アイリの問いに、玲音はとぼける。アイリは少し困ったような顔をする。
あのお見合いの翌日。二人は今、六本木の商業施設に来ていた。
婚約した二人は、映画でも見に行って仲を深めてこい、と大人から言われたのだ。
だから、これはデートということになる。
アイリは声を低める。
「わたしと婚約したこと……」
「ああ、それならもちろん問題ないよ。まあ、婚約者のフリをしていればいいわけだから。新城さんの問題が解決したら、婚約は解消しよう」
「でも……悪い気がして」
「新城さんから言い出したのに?」
「そ、それはそうだけど……」
「それに、こんな可愛い婚約者がいたら自慢できるし」
玲音は冗談めかして言う。アイリは少し顔を赤くする。
「か、可愛いなんて……わたしはそんなことない……」
「誰がどう見ても、可愛いと思うけどね。みんな新城さんを見てる」
金髪碧眼のアイリは、目を引く美少女だ。まだ10歳だけど、とても愛らしい。あと5年経ったら、多くの男が言い寄るだろう。
とはいえ、今はまだ小学生なわけで、周りの少年たちは女子に興味がない――あったとしてもそれを素直に表に出せないから、アイリには実感がないのかもしれない。
「は、恥ずかしいこと、言わないで……」
「あ、嫌だった?」
「い、嫌ってわけじゃないけど……そういう見神くんもかっこいいよね」
アイリは何気ないふうに言う。
玲音は少しどきりとする。前回の人生では、かっこいいなんて言われたことはほとんどなかった。
「そうかな」
「そうだよ。わたしのこと、守ってくれたし。わたしは見神くんに怪我させちゃったし……」
「あのときのことなら、気にしないでよ。ちょっと手を切っただけだし……」
玲音は笑ったが、左手は包帯が巻かれている。アイリは申し訳無さそうにその手を見た。
「ごめんなさい……」
アイリはうつむいてしまう。
(本当に、俺は気にしていないんだけど……)
玲音は考えた。気にしていない、と言っても、アイリは気に病んでしまうだろう。
それなら、なにかアイリに「代償」を差し出させればいい。
「じゃあさ、新城さん。一つお願いしていいかな」
「な、なんでも聞く」
アイリがこくこくとうなずく。女の子が「何でも言うことをする」なんて言ってはいけないと玲音は思ったが、口には出さないでおく。
「手を繋いでくれる?」
「え?」
「その方が婚約者らしいかなって」
「で、でも、今はお父さんたちもいないし、別に婚約者のフリをしなくても……いいんじゃない?」
「普段から仲良くしておかないと、いざ大人たちを相手にしたときの態度が変になって、バレるかなと思って」
「あっ、そっか……」
アイリはちょっと恥ずかしそうにしながら、玲音の右手を握った。その小さな手はとても暖かかった。
ほんのりと頬を赤くした少女は、微笑んだ。
「ねえ、これからよろしくね。見神くん」
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