琴葉の事情
朝食の席で、琴葉はちらちらと玲音を見ていた。
今朝の玲音の振る舞いがよほどショックだったのだろう。ただ、悪く思われたわけではなさそうだ。
その証拠に琴葉の顔は赤くて、恥ずかしそうにしていたから。
ちなみに朝食はシャンデリア付きの食堂で取った。どうやら見神家は大豪邸らしい。
しかも、この食堂は家族用のもので、ホームパーティを開くためのホールまであるというのだから、玲音は恐怖した。
ただ、この場で朝食を取っているのは二人だけ。
玲音と琴葉が二人で隣に並んでいるだ。
他の家族は用事があるらしい。玲音を溺愛している母・愛乃も、今日の朝は当主とともに行事に出ないといけないという。
なので、すでに食事を取り終わって外出してしまった。
(まあ、玲音が寝坊したせいでもあるんだけどね……)
それで琴葉と二人きりなわけだ。
使用人が作ってくれたスクランブルエッグとソーセージをたいらげると、玲音は琴音に微笑んだ。
「なにか聞きたいことがある?」
「え?」
「ずっと俺を見ていたから」
「み、見てなんかいません! あの……今朝の言葉は本心ですか?」
「どの言葉のこと?」
玲音はとぼけてみせる。すると、琴葉は「やっぱり兄さんは意地悪です」と頬を膨らませたので、玲音は慌てた。
あまりからかいすぎないようにしよう。
「琴葉が妹でいてくれて良かったというのは本心だよ」
「嘘」
「嘘なんてつかないさ」
「だったら、私をこれまでいじめてきたのは、なんだったんですか?」
この点をきちんと説明できなければ、怪しまれたままだ。
玲音は居住まいを正す。
そして、深々と頭を下げた。
「ごめん。琴葉」
「に、兄さん?」
「今まで琴葉に嫌な思いをさせたことは謝るよ。ずっとひどいことをしてごめん。言い訳にもならないけど、照れ隠しだったんだ。琴葉が可愛くて大事だから、ついかまってしまったんだよ」
好きな子ほどいじめたくなる、という理屈だ。この場合、相手は妹だが。
個人的には、玲音は「好きだから意地悪をした」というのは、何の免罪符にもならないと思っている。
理由はどうあれ、好きな女子に嫌がらせをする男子なんて(もちろん性別が逆でも)、相手の気持ちを考えれば、とんでもない話だと思う。
ただ、この場合、理屈の通った説明をすることが大事だ。玲音の突然の変化を、琴葉に納得させる方法が他にない。
琴葉は目を丸くして、そして、言う。
「兄さんは私のことを妹と思ってくれていたんですね……」
「当たり前だよ」
「嬉しいです。あの……つまり、私たち家族ってことですよね?」
「もちろん」
ぱっと琴葉が顔を明るくする。
琴葉がなぜ当たり前のことを確認するのか、わからなかった。玲音の記憶を探っても理由は思い当たらない。
その理由はすぐにわかった。
琴葉がぽろぽろと泣き始めたからだ。玲音は慌てた。自分が琴葉を泣かせたのか、と思ったからだ。
ところが、琴葉は首を横に振った。
「違うんです、私、本当に嬉しくて……だって、私の家族は今まで、一人もいませんでしたから」
「え? だって、琴葉には父さんも母さんもいるはず……」
「兄さんは知らないと思いますけど、私、養子なんです」
琴葉は突然、衝撃の告白をした。
琴葉はデレデレになっていきます……!
面白い、続きが気になる、ヒロインが可愛い!と思っていただけましたら
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