転生したら可愛い妹がいた
コンビニからの帰り道。
その男は殺された。
彼の人生は、何も良いことがなかった。
幼い頃、両親はいつも喧嘩していて、やがて離婚した。学校ではいつも一人ぼっち。
やがて新卒での就職に失敗し、無職のまま資格試験に挑むも落ち続け……。
なんとか潜り込んだIT企業は超ブラックで、二年ほどで心を病んで退職した。
貯金と傷病手当金で生きる日々。一人暮らしで、恋人も友人もいない。
引きこもり生活のなか、買い出しだけには出ないといけない。そして、冬の夜のコンビニに行ったときに事件は起きた。
「きゃあああっ!」
若い女性の声が響く。
帰り道。ナイフを持った通り魔に金髪碧眼の美人女性が襲われていた。どうやら妊婦のようで、逃げ遅れたらしい。
とっさの行動だった。男は通り魔の目の前に飛び出て……もみ合ううちにナイフで腹部を刺された。
彼は地面に倒れこんだ。血が大量に出ているな、と薄れゆく意識のなかで思う。視界も暗転して、自分がこれから死ぬのだと直感した。
どうやら通り魔は取り押さえられたらしい。
女性はたぶん助かった……のだろう。
それなら良かったと思う。
(何もできなかった俺の人生にも、唯一意味があったことになる。
でも、もう一度生まれ直すことができるなら――。
今度は幸せな人生を送りたい。一度だけでなく、ずっと誰かの役に立つ人生を送りたい。
彼はそう願った。
☆
目が覚めた。病院……と思ったけれど、違うらしい。
暖かな朝日が差し込む部屋だ。9畳ぐらいはある広い部屋だが……。
(子供部屋……?)
直感的に、小学生ぐらいの男の子の部屋だとわかった。
ゲーム機とか、カードゲームのカード、漫画。そういったものが散らかり放題になっている。
ただし、かなり裕福な家なのか、勉強机はマホガニーの高級品だし、遊び道具も贅沢なぐらい揃っている。
頭痛がする。自分の手を見ると、とても小さい。
慌ててベッドから起き上がり、姿見を眺める。鏡に映ったのは、自分の姿、つまり通り魔に襲われた男の姿ではない。
10歳ぐらいの少年だ。けっこう美少年というか、目も大きいし、なかなか可愛い。
混乱する彼の頭の中に、別人の記憶が流れ込んでくる。
この少年、つまり今の自分の名前は見神玲音。
見神グループという大財閥の子供だ。当主の父と、その妻の元女優の長男。
名門私立小学校に通う四年生。家柄にも家族にも恵まれ、勉強も運動も得意。
何一つ不自由せずに育った子供だ。
(これが今の俺……?)
呆然とする。
理解が追いつかない。いわゆる転生なのだろうか。
そうだとしたら、元の見神玲音本人の人格はどこへ消えたのか?
だが、少なくとも今は、自分が玲音だ。
転生した男は――いや、玲音は首を横に振った。
ともかく、起きたことは受け入れざるを得ない。
それにこれはラッキーかもしれない。
最高に恵まれた環境で、人生をやり直せるのだから。
だが、そんな考えはすぐに間違いだと思い知らされる。
ノックの音とほぼ同時に、扉が勢いよく開く。
飛び込んできたのは、幼い少女だった。玲音よりもたぶん年下だ。
つややかな黒髪に、清楚なワンピース。
かなり可愛いお嬢様という感じ。
「玲音兄さんは本当にクズですね? いつまで寝ているんですか?」
玲音の妹・見神琴葉(9歳)は腰に手を当て、仁王立ちしていた。
(なるほど。この美少年の玲音の妹なら、可愛くて当然か……)
だが、彼女の黒い大きな目に、憎悪の色が浮かんでいるのを見て、玲音は怯んだ。
そして、玲音は今まで琴葉に行ってきた嫌がらせの記憶が蘇る。
これまでの玲音はあまりにも甘やかされすぎて、そして才能を持って生まれたせいで……傲慢でとてもとても嫌な子供だったのだ。
そういうわけで琴葉からも、玲音はかなり嫌われているらしい。
玲音(の中の男)は慌てた。玲音が琴葉にしてきたのは、おもちゃを取り上げたりとか、突き飛ばしたりとか、からかったりとか、子供らしい行動ではある。
とはいえ嫌われるのには十分な行動だ。
琴葉は頬を膨らませている。
「兄さんみたいな人が、見神グループの後継者だなんて本当にありえない! いつも寝坊してくるし、お母さんにはわがままばかり言うし、傲慢で周りの人みんなを馬鹿にしているし……私、兄さんのことが大嫌いです」
「と、とりあえず、寝坊してごめん」
「へ?」
琴葉が一瞬で、呆然とした表情をした。
「どうしたの?」
「あ、あの絶対に他人に謝らない玲音兄さんが、こんな些細なことで謝った……!?」
玲音少年の評価の低さに、愕然とする。だが、つまり、まともに振る舞うだけで、これまでの悪評はくつがえせるかもしれない。
次の手に出てみる。
玲音は微笑んだ。
「いつも起こしに来てくれてありがとう、琴葉」
言われた琴葉はフリーズした。
玲音は少し考えて、さらに押してみることにした。
「琴葉みたいな可愛い自慢の妹がいて、俺は幸せだよ」
さすがにわざとらしいか、と思ったけれど、これは本心である。
こんな美少女でしっかり者の妹がいたら、男ならみんな泣いて喜ぶだろう。前の人生でもこんな妹が欲しかった。
琴葉はみるみる顔を真っ赤にした。
そして、廊下に飛び出す。
「れ、玲音兄さんがおかしくなっちゃった!!!」
取り残された玲音は肩をすくめ、そして、ふふっと笑った。
人生やり直しのハイスペック少年が、婚約者の少女を10歳から溺愛して幸せにするまでの一生です!
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