9―初陣の足音
「ふぅ・・・ごちそうさま。」
「ご満足頂けたようで何よりです。このような食事しかご用意できず、大変申し訳ございません。」
「そんなことないですよ。とっても美味しかったです!」
いやぁ満足まんぞく♪
めっちゃ美味しかったし、何よりこんな完ペキなシチュで食べることができたんだもん!
仄かなオレンジ色の灯りに照らされた洞窟の岩肌、木製のテーブルの上に並んだ質素だけど味わい深い料理の数々・・・
まさに、『ザ・ファンタジー世界の食事風景』ってカンジだったな!
色んなことがあって実感なかったけど、やっぱりあたし、剣と魔法の異世界に来たんだよね・・・
改めて考えると、感慨深いな。
今まで映画やアニメの中でしか見ることがなかった場所に、まさか本当に来ることができたなんて。
でも・・・
この服装はちょっと派手じゃない、かな?
赤を基調としたドレスに、ダイヤのネックレスって・・・
しかも胸元ちょっと見えちゃってるし・・・
「特別なお方なので、この拠点で最高級の衣服をご用意しました!」って言われて着たけど、イザ鏡に向かってみると、あまりのミスマッチに見てられなかったもん。
TシャツやGパンしかほとんど着なかった身としては、今のスタイル、めっさ恥ずい・・・
「どうかなさいましたか、ミラ様?」
「えっ、ああいや。何でもないです!すいません、こんなに手厚くもてなしてくれて。」
「とんでもない!ミラ様は私たちにとって偉大な導き手なのですから、これくらい当然ですっ!」
そ、そっすか・・・
やっぱり救世主として行く先々でチヤホヤされることになんか抵抗あるんだよなぁ・・・
でも今のあたしは、この人達にとって救世主・ミラなんだから頑張って慣れないと。
「じゃ、じゃああたしはそろそろ部屋に戻ろうかな?」
「分かりました。ではお二人の案内は弟に任せます。おい!ネザミ、ミラ殿をお部屋までお連れしろ。」
「分かったよ兄貴。では、こちらへ。」
なんか彼、あたし専属の付き人みたいになってるな・・・
◇◇◇
「おいアレ、ミラ様じゃないか?」
「ホントだ!あの白銀の髪色、なんて神々しい。」
「生きている内に、あのご尊顔を拝めるなんて。」
なんか、周りの視線が熱いな・・・
歩くたんびに、人からキラキラした目で見られるなんて・・・
芸能人が外出する際にマスクとグラサンをつけたがる気持ち分かった気がする。
「なんか、あたしってみんなの注目めちゃくちゃ集めるよね。」
「ここの者たちは色々なことを経験して流れ着いたのばかりなので、ミラ様のお顔を見ることが叶って失っていた活気が一気に沸き上がったのでしょうね。」
「記憶を無くす前のあたしって、そんなにもみんなの生きる希望だったんだ。」
「そりゃ勿論です!なんで兄貴からも仰せつかってます。“ミラ殿のお手を煩わせることは決してしないように!”と。」
「ごめんね。色々と世話焼かせちゃって。」
「そっ、そんなことないですよ!あっ、ここがミラ様がお過ごしになるお部屋です。」
へぇ、ひんやりしてて過ごしやすそうな場所だな。
「すでにお風呂の用意も済ませてありますので!」
お風呂?
ラッキー!
ちょうどさっぱりしたいと思ってたんだよね♪
「ではこれで失礼します!昼が明ければこの拠点の長が遠征から帰ってくると思うので、その時は会わせるようにしますので。」
「ん?昼が明ける?日が沈む、とかじゃなくて?」
「オレ達吸血鬼は昼と夜の概念が他の種族とは真逆なんでこのような言い方をするんです。」
「ああそうなんだ。ちなみにさ、太陽に当たると灰になったりはしないの?」
「はっ、灰に!?そ、そのようなことは決して・・・」
「そっ、そっか!ごめんごめん。なんか変なこと言っちゃって。」
この世界の吸血鬼って、あたしのいた世界で一般的に言われてる吸血鬼とはやっぱ違う種類の存在なんだ。
「呼び止めちゃって悪かったねっ。今日は何から何までホント助かった!」
「ミラ様にそう言って頂けるなんて、光栄です。」
「明日もよろしくね、ネーくん。」
「ねっ、ネーくん?」
「うん!ネザミだからネーくん。あたしのことも別に様付けじゃなくてミラって呼んでくれたっていいから。」
「とっ、とんでもないです!我らの救世主たるミラ様にそんな馴れ馴れしい呼び方をするなんて!」
「やっぱそうなっちゃうか・・・じゃあさ、別に無理しなくていいからちょっとずつ緊張しないで接してくれると嬉しいな。」
「あっ、ありがとうございます。努力いたします。」
フランクに接するのに、別に努力する必要なんてないんだけどな・・・
◇◇◇
ポチャン・・・
「ん~極楽ごくらくぅ♪」
洞窟風呂がこんなに気持ちいいなんて思いもしなかったな。
しかも付いてる小窓から拠点の景色が一望できるなんて最高じゃんか!
・・・・・・・。
・・・・・・・。
まだ異世界に来てから半日くらいしか経ってないのに、色々と大変だったな。
生まれ変わった瞬間に人を殺してしまって、閉じ込められた仲間をいっぱい救って、初めてできた友達を危機から助けて、着いたばっかのこの場所じゃ英雄扱いされて・・・
異世界での暮らしが、こんなにくたくたになるなんてまるで想像してなかったよ。
あたし、この先ここで上手くやっていけるかなぁ・・・
それだけが、どうしても不安になる。
あたしにあの子・・・
あたしを生き返らせた本物のミラの代わりが果たして務まるのかな・・・
「こんな、平凡な暮らししか送った事のない、ただの日本人の女子高生なんかに救世主の代役が務まるワケ・・・」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
今そんなことくよくよ悩んでたって仕方ないか。
取り敢えず今日はゆっくり休んで、明日ここのリーダーと相談して今後のことを決めるか。
よし、じゃあそろそろ上がるかっ。
いやぁ考えごとしてすっかり長湯しちゃったよ~
景色に見惚れてたってのが大きいんだけどネwww
えっ~と、パジャマパジャマ・・・
あっ、あっt・・・
・・・・・・・。
・・・・・・・。
こりゃまた随分露出しやすい・・・
白と金のナイトドレス・・・
寝てる時に寝返りではだけてしまわないかな?
◇◇◇
「はぁ・・・!はぁ・・・!はぁ・・・!」
「どっ、どうにか振り切ることができたみたいです、拠点長殿。」
「ああ。しかし、こちらの損耗率は中々に厳しいな・・・」
「いかがなさいますか?」
「そう、だな・・・拠点に残っているアドレ達に救援要請を送れ。到着次第に体制を立て直し、追撃をかわしつつ撤退する。」
「了解しました。では、直ちに。」
「さて、これからどうなるか・・・正直、これ以上追手が激しくなると帰還が難しくなってしまう。望み薄だと思うが、我々に奇跡でも起きてくれればよいのだが・・・」