86―魂喰い華の耳飾り
レオルさんが部屋を出て行った後、あたしは木箱から耳飾りを取り出して手に取って眺め続けた。
「しっかしこれが、見た人をめちゃくちゃ虜にする呪いの耳飾り、ねぇ~・・・?」
レオルさんは、あんなに怖そうに話してたけど、あたしはまだ半信半疑だった。
だって見たカンジ、ただのオシャレなピアスだったからだ。
「アサヒ様、あんまり見つめ続けると危険ですよ?」
「え~そうかなぁ?あたしはコレ、あんま欲しいとは思わないんだけど。ねぇ、ソレットはコレ欲しいと思う~?」
耳飾りをヒラヒラさせてソレットに見せびらかすと、彼女は怯えて視線を逸らした。
「やっ、やめて下さいよ~!!わたくしが狂ったらどう責任取るんですか!?」
「ああゴメンゴメン!つい調子に乗っちゃって・・・。でもさぁ、コレあんま危険な代物にはとても見えないんだよね。」
「たっ、確かに。一見すると、何の変哲もない普通の耳飾りにしか思えないのですが・・・。」
「そうだよね!レオルさんちょっとビビりすぎだったんじゃないの~?ってあれ?どったのヒバナ?さっきからずっと黙ったりして。」
「いや、あの・・・。その耳飾り、どこかで見た気がするのですが・・・。」
「ウソ!?どこで?」
「えっ~と・・・古い呪物の特徴を記した書物・・・だったと思います。」
「マジで?もしかしてこれって、すごく有名なアイテムだったりする?」
「おそらくは。」
「そっか~・・・。一体何なんだろうね、コレ?」
「あの、アサヒ様。」
「何?」
「それほどに有名な呪いの品なのだとしたら、王宮の書庫にある書物にも記述があるかもしれません。」
「確かに!よし!そんじゃちょっと調べに行くとしますか~。2人も一緒に来てっ。」
「任せて下さい!アサヒお姉様。」
あたし達は、王宮内の書物で耳飾りの詳細を調べるために行くことにした。
「ヒバナ様?」
「何?」
「前から気になっていたのですが、どうしてヒバナ様はアサヒ様のことをアサヒお姉様と呼んでいるのですか?弟子といっても、血の繋がりはないのでしょう?」
「フフン♪それはね、アサヒお姉様は、私にとって師匠以上の存在・・・。そしてアサヒお姉様にとっても、私は弟子以上の大切な存在だからよッッッ!!!それはまさに・・・姉妹であり、そして恋人であり♡♡♡」
「はっ、はぁ・・・?」
「おこちゃまのあんたには分かんないでしょうけどっ。」
「分からないような、分かってはいけないような・・・。」
「それどういう意味よ!?」
「いや、別に・・・。」
「何してんの2人とも!早く行くよぉ~?」
「「は~い・・・。」」
あれ?
この2人、ちょっと打ち解けてきた・・・?
◇◇◇
王宮の地下の書庫に着いたあたし達は、問題の耳飾りが書かれた本を手分けして探した。
「ないなぁ~・・・。そっちは何か見つかったぁ~?」
「こちらはまだ何も。ヒバナ様は~?」
「こっちも全然見つかんない!ってどれだけの本が納められてんのココ~!?」
「建国以来王宮内で記された全ての書物がありますからね。これは探すのは相当時間かかるかと・・・。」
「マジかぁ~!!とにかく呪物関係は一通り洗って!なんか見つかるかもだから!」
「「了解しました!!」」
と言ったものの、呪物のことが書かれた本だけでもめちゃくちゃな数があるし、見つかるまでホントどれくらいかかんだろ?
しかもここ、めっちゃ埃っぽいし!!
あ~早く見つかんないかなぁ~・・・!
・・・・・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「あっ!ありましたぁ!!」
「ウソ!?ホント?」
書庫を漁りだして3時間ほど経過して時に、ソレットがあたしとリリーを呼んだ。
どうやらようやく見つけたようだ。
「これじゃないですか?」
ソレットが見せたページには、確かに問題の耳飾りと同じイラストが描かれていた。
「えっ~とナニナニぃ・・・。“魂喰い華の耳飾り”?」
「「ッッッ!?!?」」
そのワードを聞いた瞬間、あたし以外の2人の顔が一気に青ざめた。
「何?どしたの2人とも?」
「そっ、そんな・・・。ウソでしょ・・・。」
「ソレット?」
「まっ、まさか実在していたなんて・・・。」
「ちょ、ちょっとヒバナ!何なのその魂喰い花の耳飾りって!?」
「耳に付けた所有者の、命を奪う、伝説の、耳飾り、です・・・。」
はぁ!?
伝説の呪いの耳飾りぃ!?
「一度その耳飾りの虜になり、耳に付けてしまえば、たとえ死んでも外したくなくなり、命を吸い尽くされるまで、決して外さないと、言われています・・・。」
そっ、そんな某有名ファンタジー映画に出てくる指輪みたいな代物なのコレぇ!?!?
あたしはポケットにしまった耳飾りに一気に鳥肌が立った。
「しっ、しかし・・・!!」
「なっ、何ヒバナ?」
「魂喰い華の耳飾りは、あまりに有名なため、贋作も数多く出回っているとされています・・・。」
「じゃ、じゃあコレが本物って確証はまだないってワケね!?ねぇ!なんか判別する方法とかないの!?」
「ほっ、本物でしたら持ち主が死んだ時に蕾だった宝石が咲くのですが・・・。」
「そっ、それ以外に何かないの!?ほら、何かすれば文字が浮かび上がるとか・・・!!」
「えっ~と・・・そのような話は聞いたことがなくて・・・。あっ!この本の何処かに何か書かれているかも・・・!!」
リリーは他に判別方法が書かれてないか、本のページを慌ててめくった。
「あっ!ありましたよ!!他の判別方法!!」
「ホント!?見せて見せてッッッ!!!」
あたし達は3人揃って、もう一つの、本物かどうか分かる方法が書かれたページを見た。
ナニナニ~・・・!!
「「「“夜空の下、冥府の炎に当てると、かの耳飾りの華、開かれり。”」」」
息ピッタリに読み上げた後、あたし達はお互いの冷や汗まみれの顔を見合わせた。
◇◇◇
「いい?そんじゃやるよ~!」
夜になり、雨もすっかり上がったので、あたし達は耳飾りを冥府の炎で炙るために庭園に出た。
「しかし、驚きました・・・。」
「なっ、何がぁ・・・?」
「まさかアサヒ様が、不浄系の魔能も扱えたなんて。」
「あっ、あたしに使えない魔能はないんだからね!そこんとこよ~く知ってよねソレット!!」
「はっ、はい・・・。」
中央に置かれた耳飾りに、あたし達は全員ビビりまくっていた。
もしこれが本物だったら・・・。
「だっ、大丈夫ですよアサヒお姉様!!多分コレも、巷で出回ってるよくできた贋作の一つですって!!」
「そっ、そうだよね!!」
うん!リリーの言う通り、いくら何でもどこにあるか分からない伝説の耳飾りがあたしのトコに来るわけ・・・。
そうなったらある意味相当な豪運だわあたし!!
「じゃあ、やるよ!」
あたしの言葉に、ソレットとヒバナは大きく頷いた。
さぁいよいよ、運命の瞬間だ!!
どうか、本物でありませんようにッッッ!!!
「冥府の業火・・・!」
地面に置かれた耳飾りはボッ!っと小さな炎に包まれた。
華は・・・咲いてない!!
「ほっ、ほ~らぁ!!やっぱりコレ、ニセモンだったんだ、よ・・・。」
安心しかけたその時、耳飾りの蕾はゆっくり開いていき、見事な瑠璃色の蓮の華になった。
これって、つまり・・・。
咲いたって、コトはだよ・・・?
つまりは・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
魂喰い華の耳飾り・・・?
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
あたし達は、華が咲いた耳飾りをしばらく見つめた後、変な声を出しながら一斉に部屋の中に逃げ込んだ。
「ちょ、ちょっと!!あんた何逃げてんのちんちくりん!!」
「それはヒバナ様も同じでしょう!?」
「だっ、だって!まさか本当に本物だとは思わないでしょ!!」
「2人とも!!今は言い合いしてる場合じゃなあいでしょうがぁ!!」
「「そういうアサヒ様(お姉様)だって、どうしてお逃げになったのですかぁ!?!?」」
・・・・・・・。
「だって怖かったんだもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!」
お互いに感情をぶつけ合って、あたし達は息がすっかり上がってしまった。
「はぁ・・・!はぁ・・・!あっ、あの・・・。ちょっといいですか?」
「何ぃ・・・!?ソレットぉ・・・?」
「外のアレ、誰が取って来ます?」
「「あっ・・・。」」
外を見ると、あたしが付けた火はすっかり消えていて、耳飾りも元通りに戻っていた。
そっか・・・。
アレ、誰か取りに戻んなきゃいけないんだよね・・・。
「そっ、それはアサヒお姉様の召し使いであるあんた行くべきでしょ?」
「なっ、なんでわたくしが!?行くならアサヒ様の弟子のヒバナ様が行くべきじゃないですか!?」
「なっ、何言ってんの!?アサヒお姉様に私が狂うところなんか見せたくないわよッッッ!!!」
「安心して下さい。その時は、アサヒ様に介錯して頂きますので!」
「私死んでじゃないのッッッ!!!」
リリーとソレットは、誰が取ってくるかまたやいやい言い合いをおっ始めた。
「もういいッッッ!!!あたしが取りに行く!」
「「あっ、アサヒ様(お姉様)!?」」
「元はと言えばあたしが引き受けたのが原因なんだからさ、2人を危ない目に遭わすワケにはいかないよ!」
「アサヒ様・・・。わたくし、あなた様を見くびっておりました。あなた様は、すごいお方だったのですね・・・。」
「なんかその言い方だと、今までは思ってなかったように聞こえんだけど・・・。まぁ、いいや。それじゃ、あたしが合図したら、窓を開けて。分かった、ソレット?」
「お任せ下さい!」
「アサヒお姉様!どうかお気をつけて・・・!」
あたしは窓の前でクラウチングスタートの姿勢になって、耳飾りを取ってくる準備をした。
「よ~し・・・。今!開けて!!」
窓が開くと、あたしは駆け出し、耳飾りを手に取って中に入ろうとした。
その時・・・ソレットが窓を閉めた。
「あれ!?ソレットさん!?ちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「すいませんアサヒ様・・・。あなた様の犠牲、決して無駄にしません!!オヨヨ・・・。」
「何ふざけたこと抜かしとんじゃい!!いいから早くここ開けろワリャ~!!!」
「お断りします!!アサヒ様お一人の命でわたくしとヒバナ様の・・・いいえ、王宮内の全ての者が助かるのですから、決してこの窓を開けるワケには参りません!!!」
「ヒバナ!!今ならソイツしばいてもいいから、代わりにここ開けてぇ~!!!」
リリーがソレットの頭を力いっぱいはたいて、窓を開けるとあたしは中に転がり込んだ。
そして耳飾りを木箱にしまうと、急いで机の引き出しに入れた。
「ごっ、ご無事で何よりですアサヒ様!!」
「どの口が言うとんねん!!今度あんたにまんま同じことしてやるから覚えとけよぉ・・・!!!」
あたしが睨みつけると、ソレットはめっちゃ怯えた子犬のような目をした。
何であんたがそんな顔してんだよ・・・。
「アサヒお姉様。どう処理しましょうか?魂喰い華の耳飾り?」
「う~ん・・・。」
机の中の耳飾りについては、明日改めてあたしから王様に話すことにして、2人はそれぞれの部屋に反した。
夕食の時間はとっくに過ぎてたけど、ビビりまくっていたせいですっかり食欲を失くしてしまった。
「しかしレオルさん・・・。とんでもないモンを預けていきやがってぇ~・・・。」
木箱を直した引き出しをまじまじと見つめて、あたしはレオルさんの頼みを引き受けたことをめちゃくちゃ後悔するのだった・・・。




