76―王都朽鬼アウトブレイク⑧
カリアード君が・・・今回の、事件の、首謀者・・・?
あたしは元気ハツラツに「自分がこの惨劇を仕組んだ張本人だ。」と名乗り出たカリアード君の言葉を、信じることができなかった。
いや、違う
絶対に、違うに決まってる・・・!
「うっ、ウソだッッッ!!!」
「はい?」
「だって・・・カリアード君そんなエグいことするような人じゃないもんッッッ!!!あたしの知ってるカリアード君は、真面目で優しくて、自分なりに頑張って、吸血鬼のこと守ろうって人に訴えかけるとってもいい人じゃん!!こんな・・・こんな大それたマネをしでかすような人なんかじゃないじゃんッッッ!!!」
「どうしたのですかミラ様?そんなに慌てて。」
「ねぇ!誰かに脅されて言わされてんだったら安心して!!あたしが絶対にカリアード君のこと守ってみせるから!!フィアナちゃんや他の人が人質とかに取られてるんだったら、絶対に助けるから!!攫ったヤツらを皆殺しにしてでも助け出してみせるから!!だからお願い!!思ってもないこと言って、あたしを怖がらせるのだけはやめてッッッ!!!あたし、本気で怒るからねッッッ!!!」
「ご心配には及びません。誰も危険な目には遭っていませんから。」
「だったら何でそんなこと言うの!?」
「ですからそれは、今回のことは全て私がしたことで・・・。」
「だからそれを言うのはやめろつってんのッッッ!!!」
語気を荒げたあたしに、カリアード君はビクっとなった。
「“違う”って言って。お願い・・・。お願いだからさっき言ったことは違うって、言って・・・!!」
泣きながら頼むあたしに、カリアード君は何も言わず、少し困り顔で見るだけだった。
「何で違うって言わないんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「何度も仰るように、今回のことは、全部俺が仕組んだことなんですよ?」
声を荒げて叫んだせいで、息が切れるあたしに、カリアード君はまるで窘めるように、トドメの一言を言い放った。
「どう、して・・・?」
「ミラ様?」
「どうしてこんなひどいことしたの!?カリアード君前に言ってたじゃん!!“王国のお偉いさん達が、吸血鬼に理解示してくれて大切にしてくれるように頑張る。”って!それがカリアード君のしたかったことじゃないの!?」
「ミラ、様・・・。」
「カリアード君、王国の偉い人になって、吸血鬼でも安心して暮らせる国作りをしていくってあの時言ってたじゃん!?」
「・・・・・・・。」
「あたしが吸血鬼と人間のための学校作ったら、一緒に手伝うって約束したでしょ!?あの時の約束は、ウソだったっていうのッッッ!?!?」
悲痛なあたしの叫びは、今のカリアード君にはまるで響いていないみたいだった。
それは、彼がこれからする告白によって確信された。
「ミラ様なら、分かってくれると思っていたのに・・・。ミラ様、あなたはどうやら、甘すぎるみたいですね・・・。」
「どういう、こと・・・?」
「ミラ様。実は私は、吸血鬼救済会の活動をする傍ら、人間を吸血鬼にする薬を開発をしていました。」
人間を、吸血鬼にする、薬・・・?
「数多くいる人間を吸血鬼へと変えれば、吸血鬼の数が増え、彼等を救済へと導いて行けると思ったからです。ですが開発は難航を極め、私は半ば諦めかけていました。ですが、開発の過程で奇跡が起きたのです。」
「奇跡・・・?」
「人間を・・・今王都で暴れている者達に変える薬が生まれたのです!!彼等が人間を襲う理由、それは薬の原料として使用した吸血鬼達の血の内に眠る人間への憎悪そのものなのです!!彼等は己が内に眠る本能のまま人間を襲い、自分達を生んだ吸血鬼の無念を晴らし、そればかりか、殺した人間を自分達と同じにし、吸血鬼達への贖罪の機会を与えてくれる・・・!いいですかミラ様。彼等こそが、吸血鬼救済のために、天が俺に授けて下さった聖なる生き物なのですよッッッ!!!」
目をキラキラさせて熱弁するカリアード君だったが、あたしは彼が、何を言ってるのか全く理解できなかった。
あの化け物が、吸血鬼救済のための、存在?
そんなの・・・絶対に間違ってる・・・!!
「ミラ様は俺のしたことを・・・吸血鬼を救うためにこの世に生まれた彼等を否定なさるというのですか!?」
「・・・・・・・。うん。」
「は・・・?」
「否定する。否定するに決まってんじゃん!奇跡?聖なる生き物?何言ってんの!?あんなのただのかわいそうな死人の成れの果てでしょ!?いいカリアード君?今街でウーウー言いながら人を襲ってるアイツ等だって元はただの普通の人だったんだよ!?それがいきなりワケも分からないヤツに噛まれて、血を全部吸われて、挙句の果てには同じにさせられて、他の街の人や大切な家族とか襲ってんだよ!?それがどんだけ・・・どんだけ辛くて苦しいことか分かってんの!?カリアード君のしたことは、“俺の作った毒薬スゲェ!”って気色悪く笑う、ただのイカれた科学者と一緒なんだよッッッ!!!」
あたしはカリアード君の熱弁を全力否定したが、彼は澄まし顔を止めなかった。
「ミラ様はそうやって俺の行いを否定なされますが、今回のことはあなたにも責任の一端があるのですよ?」
「責任の一端?」
「失敗作ばかりだった薬を奇跡の水へと昇華させたもの・・・それは他ならない、ミラ様、あなたの血です。」
「あたしの、血・・・?」
「申し訳ありませんが、昨晩あなたの血をこっそり採取させていただきました。さすがは伝説の吸血鬼として名高いミラ様の血液・・・想像通り、比類なき力が込められていました。その力の産物が、人間を彼等へと変える薬です。ミラ様、ある意味あなたは、今回の俺の計画の一番の功労者とも呼べるのですよ?」
あたしの血で、アイツ等を作る薬が、生まれた・・・?
あたしの血が、街の人を、アイツ等に、変えた・・・?
全部・・・あたしの、せい・・・?
「お分かりですか?彼等が生まれる一番の要因となったミラ様には、最後まで責任を果たす義務があるんです!!さもなくば、犠牲となった者達が浮かばれません!!さぁ!俺と一緒に、吸血鬼を解放へと導きましょうッッッ!!!」
項垂れるあたしに、カリアード君は再び手を伸ばしてきたが、あたしはその手をパシッと弾いた。
「ッッッ!」
「たとえ、どのような経緯があろうとも、今回の事件は間違いなくカリアード君がしたこと・・・。だったらあたしは、何があっても、カリアード君とは手を組まない。」
「ミラ様・・・!いいですか!?王都の人間が彼等になったのはあなたにも責任が・・・。」
「あたしにも街の住民が死んだ責任があるっていうんなら、あたしが全部無くしてやる。カリアード君、あたしが誰か、忘れてないでしょうね?」
「ッッッ!!!」
あたしが迫ると、カリアード君がグッと息を呑んで黙りこくった。
「どうしても・・・俺と、手を結ばないと、言うのですね・・・。」
「決まってんじゃん!だから・・・お願い。カリアード君!今からでも遅くないから、もうこんなことは・・・!!」
「だったら、こうするしかないようですね。」
「へ・・・?」
カリアード君は展望台の端まで行き、そこから見える王宮を指差した。
「ご覧下さい。街のほぼ全域は彼等に占領されましたが、王宮の連中はしぶとくてですねぇ・・・。ほら、高くそびえ立つ城の壁を、彼等は超えることができずただ群がることしかできません。ですから俺は、彼等の手助けをしようと思います。」
「手助け?」
カリアード君は、そう言うとポケットからあるものを取り出した。
それはトゲトゲの小さい玉が入った水晶で、てっぺんに尖ったスイッチのようなものが付いていた。
「カリアード君、それって・・・?」
「これは・・・爆弾の起爆用の魔道具です。」
「ばっ、爆弾・・・!?」
「王宮の門の近くに、この水晶の中に入っているものと、同じ形の爆弾を仕掛けました。殺傷力はさほどですが、城の壁に群がる彼等の内の2、3匹ほどを入れる穴を開けることは叶いましょう。城門での突然の爆破に混乱した城の者どもは入り込んだ彼等にまともな対処ができずその後は・・・どうなるか想像できるでしょう?」
爆弾が爆発して奴らが中に入ったら、王宮の中のたくさんの人が、犠牲になってしまう。
もし王様がやられたら・・・。
そうなったら、この国が・・・無くなっちゃう・・・!!
「やっ、止めてカリアード君・・・。これ以上、罪を重ねるようなマネは・・・止めてッッッ!!!」
「だったら俺と手を組むと言って下さい!!俺が果たすべき役目は、ミラ様と一緒でなければ意味がないのです!!俺はミラ様と・・・吸血鬼救済の夢を叶えたいんですッッッ!!!」
爆弾のスイッチを片手にあたしに言うカリアード君の言葉は、先ほどとは打って変わって痛々しく、だけど、大きな決意を秘めたものだった。




